高代延博コーチ~背番号70番、円熟の守備・走塁コーチ【第48回】

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高代延博コーチ~背番号70番、円熟の守備・走塁コーチ【第48回】

8月も後半に差しかかり、プロ野球のペナントレースもいよいよ最終コーナーに差しかかってきています。パリーグは福岡ソフトバンクホークスに早々とマジックが点灯し、興味はクライマックスシリーズへの進出をかけた2位・3位チームがどこになるかに移りましたが、一方のセリーグはまだ混戦が続いており、優勝チームが決まるのは9月半ば以降になるのではないか、という感じです。

そんな中で今回は混戦セリーグで上位争いを繰り広げるチームの中から、一人のコーチを取り上げてみたいと思います。そのコーチは阪神タイガースの作戦兼内野守備走塁コーチ・高代延博(タカシロノブヒロ)氏です。

高代コーチは1954年5月生まれの61歳、奈良県のご出身で、現役時代は智弁学園高校・法政大学・社会人野球の東芝を経て、1979年にドラフト1位で日本ハムファイターズに入団されています。身長170㎝の小柄な選手ではありましたが、入団1年目からショートのレギュラーに定着し、1年目にゴールデングラブ賞を受賞される程の名手でした。そして入団2年目の1980年にはベストナインにも選ばれ、3年目の1981年には日本ハムファイターズのリーグ優勝にも貢献しておられます。

オールスター戦にも三度出場される等、現役時代も輝かしい実績を残されているのですが、高代コーチのすごいのは、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)のコーチを勤められた2009年・2013年の2年間を除き、11年間(日本ハムに10年、広島カープに1年)の現役引退後、今日に至るまでずっと一貫して途切れずにコーチ(主に内野守備・走塁コーチ)を延べ8球団(重複1チーム含む)で勤め続けておられることです。まさに守備・走塁のコーチのプロ中のプロとして、その手腕が高く評価されている証拠だと思われます。

高代コーチは、チームの強さを一目で判断するにはどこに注目するか、と問われた際に「チームの強さはシートノックと走塁を見ればわかる」と答えておられます。クロスプレーでのあと一歩という大切なポイントをチーム全体で共有できているかどうかは、ランナーのセーフティリードの幅、第2リードの距離を見ればすぐに分かるものだそうです。(ちなみにセーフティリードとは、ランナーがけん制された時にアウトにならない範囲のリード、第2リードは投手が投球動作に入った後に取るリードのことです)

そして守備に関してはチーム全体の守備力を底上げすることが必要ですが、それには色々な場面を想定したボールを何度も何度も反復して練習することが不可欠です。その際ノックバットを振るノッカーの巧拙が極めて重要となりますが、高代コーチの高いノック技術は日本のプロ野球界でも有名であり、長年の経験を経て、今ではドロー、フェイド、スピン、逆スピンといった、どんな種類のボールでも自由自在にどこにでも打てるようになっておられるようです。

そして広島カープのコーチ時代には、こんな伝説的な逸話が残っています。北別府学氏が「5球ノックを打って、何球レフトポールに当てられるか勝負しよう」と挑んでこられたようですが、最初の2球連続でレフトポールに当て、たまらず北別府氏が「ライトポールに変更しよう」と言ってこられたのを、これも1球で当ててしまい、3球連続で当てられた北別府氏が勝負することを諦めたようです。又2009年のWBCの際には、あまりに見事なノックの技術がニューヨークタイムズに記事として紹介されたこともあったそうです。

高代コーチを取りあげた評論やインタビュー記事、あるいはご自身の著書にも、一貫して「ゴロの捕球は点ではなく線で捉える」ということが書かれています。即ちゴロを捕球する瞬間にグローブを差し出す(点で捕る)のではなく、準備を早くして飛んでくるゴロに対して線で捉えて捕球するという考え方のようですが、これが名手高代コーチのゴロ捕球の基本中の基本の考え方のようです。

更に内野手が捕って投げるという一連の動作を行なう際に、「ステップ」という足を使う動作を入れることで、一塁への送球のコントロールがよくなるということも自論として持っておられるようです。

2009年のWBCの代表メンバーに選ばれた、当時横浜ベイスターズの村田修一選手(現読売ジャイアンツ)は、守ることに関して原監督をはじめ首脳陣から不安な感じを持たれていたようですが、高代コーチと話し合い、先ほどのゴロを線で捉えることと捕球→ステップ→送球を意識して、繰り返しノックを受けられたことで、WBCの期間中に守備力がかなり改善されたと言われています。

又現在コーチを勤めておられる阪神タイガースでは、元々の捕手から外野手、更に三塁手へコンバートされた今成亮太(イマナリリョウタ)選手に対して、グローブへの手の入れ方が間違っていることから指摘されたようです。内野手は捕球から送球へのスピードが要求される為、ボールをつかむのではなく、グローブに当てるという感覚が重要なようで、人差し指は出してもいいようですが、他の指はしっかりはめておかないとロスが出るそうです。こうした指導によって、今や阪神タイガースの首脳陣の間では、今成選手の三塁手としての守備は安心して見ていられるレベルという高い評価になっています。

このように守備コーチとして高い評価を得ておられる高代コーチですが、走塁コーチとしても同じレベル、あるいはそれ以上の高い評価を得ておられ、日本一の三塁コーチという言い方もされているようです。ランナーが二塁あるいは一塁にいて外野へ飛んだヒットでランナーをホームへ突っ込ませるか、三塁でストップさせるか、相手チームの外野守備の体系、外野手あるいはカットに入る内野手の肩の力、そして自チームのランナーの走力、これらを一瞬で判断する判断力が要求されます。2006年に中日ドラゴンズのコーチを勤めておられた時、その年の中日はリーグトップの669得点をあげていますが、本塁での憤死はわずかひとつだったようで、いかに的確な判断がなされていたかが偲ばれます。

長年三塁コーチを勤めてこられる中で高代コーチには「中途半端は絶対にしてはならない」という三塁コーチとしての哲学のようなものが確立されているようです。どちらとも判断できるような指示をしたことが選手に瞬時の迷いを与えてしまい、結果として失敗につながったということが過去にあったことの反省に上に立った哲学のようです。それが2013年のWBCの台湾戦で、ランナーである糸井選手を三塁でストップさせる為に、行く手の走路に体を投げ出して止めたという、映像で何度も流されている行為にもつながっているのだと思われます。

同じコーチでも、打撃コーチの評価にはチーム打率、あるいは本塁打数、打点が判断の指標になるのだと思われますし、投手コーチはチーム防御率が目安になるのだと思われます。内野守備・走塁コーチにもチーム失策率や盗塁数という指標はあるのかもしれませんが、数字には表わせないものの中に、内野守備・走塁コーチの価値があるように思えてなりません。なかなか見えにくいその価値が、チームの基礎能力そのものに直結しているようにも思えます。

高代コーチが阪神タイガースのコーチに就任されたのは昨年(2014年)からですが、一昨年クライマックスシリーズであっさり広島カープに2連敗したチームが、昨年はクライマックスシリーズで広島カープを破り、読売ジャイアンツにも4連勝して日本シリーズに進出しています。そして今シーズンも熾烈な優勝争いの真只中で戦ってします。

一見派手さはない守備・走塁という面でチームの基礎能力がジワーッと着実にアップしているのなら、高代コーチの果たしておられる役割はとてつもなく大きいのではないかと思われます。皆様も阪神タイガースの試合をご覧になる機会があったら、ぜひ三塁ベースコーチとして立っておられる背番号70番の小柄なコーチの動きにも注目してみて下さい。高代コーチのこれから先の益々のご活躍をお祈りしたいと思います。

(おわり)
2015/08/25

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筆者プロフィール

fukuyama福山義人氏 元 (株)CSKホールディングス社長
株式会社マネジメント・サポート 代表取締役 福山義人氏1949年生まれ。慶應義塾大学卒業後、現(株)SCSKに入社。創業オーナー大川功氏に師事し、新規顧客開拓担当、営業マネジャー、管理部門マネジャーを経て、2005年代表取締役社長に就任。退任後、(株)マネジメント・サポート設立。現在は、創業オーナーに仕えた経験と自らの社長経験をもとに、若手経営者へのサポート及び講演活動等に従事。

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