広島カープというチームの行き方【第30回】

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広島カープというチームの行き方【第30回】

2014年のプロ野球は全日程を終了し、今は各球団の契約更改やドラフト指名選手の入団といったストーブリーグに話題は移ってしまいましたが、今年のプロ野球を面白くしてくれたチームとして、セリーグの広島カープとパリーグのオリックス・バファローズの名を挙げてもいいのではないでしょうか。その中から今回は広島カープ(正式名称は広島東洋カープ)というチームのことを記してみたいと思います。

日本のプロ野球チームをひとつの経営体と捉えた時、首都圏と関西圏で圧倒的人気と抜群の観客動員力を誇る読売ジャイアンツ、阪神タイガースという2球団を除くと、大半の球団は経営体としては成り立っていません。即ち親会社からの赤字補填があってはじめて成り立っています。そんな中で広島カープは1975年以来昨年(2013年)まで39期連続の黒字決算を続けており、経営体として自立している数少ない球団のひとつです。

広島カープは1949年の創設ですが、親会社を持たない市民球団として結成されたという特異な歴史ゆえ、常に資金面で困難に直面してきたようで、経営の悪化による解散、身売りのピンチが何度かあった局面を、その都度市民の熱烈な支援でくぐり抜けてきました。そうした状況を経て、現在はマツダが筆頭株主、マツダ創業家の松田家の方々が株式を保有することによって、経営的には安定しています。

しかしマツダは広島東洋カープを「持分法を適用しない非連結子会社」と位置付けており、親会社として赤字補填などの資金提供はせず、球団経営への積極関与も行なわないとされています。こうした背景ゆえに、広島カープの球団経営においては、独立採算で黒字経営を行なうことが最優先事項と位置づけられているのではないかと思えます。

このようなポイントを踏まえて広島カープのチーム運営をながめてみると、なるほどと思える点がいくつも見受けられます。チームを強くするという目的の為であっても「金に糸目はつけず」という手段はとらないことが不文律とされているのでは、と思えます。外国人選手を除く日本人選手の大半はドラフト指名を受けて入団した選手です。他球団からの移籍選手は一岡投手、赤松選手、木村選手、江草投手などほんのわずかしかいません。若い選手をじっくり育てる育成のシステムがしっかりと確立されているような気がします。今季大活躍した丸佳浩選手、菊池涼介選手がその代表例でしょうし、前田健太投手もこの仕組みの中で育ったエースと言ってよいでしょう。

それともうひとつ、このチームには他球団からFA移籍した選手が一人もいません。FA制度は1993年に導入されて以来20年以上がたちますが、かつて広島カープはFA権を行使した選手の残留は一切認めていませんでした。ただしFAの資格を取得した選手が他球団の評価を聞く為にはFA宣言をする必要があり、一方で他球団の評価を聞くことをいったん認めると翌年以降の活躍如何に拘らず、年俸だけが高騰するリスクにも直面することになります。

そのことが球団経営を圧迫する危険性があるというのが長年FAを認めなかった理由のようです。ただし現在はFA宣言をして残留することも認める方針に変わりつつある模様ですが、まだ実例は出ていません。これまでのところ広島カープにおけるFAとは他球団へ移籍する事例ばかりが目立っています。

こうしたことが年俸高騰のリスクを抑え、黒字経営を維持するという基本方針を堅持する為の大きなポイントとなっていることはまぎれもない事実です。他にもドミニカ共和国にカープアカデミーを持ち、現地の選手の育成を試みています。この中からプロのレベルに到達した選手を日本に連れてくる仕組みですが、これまでに何人かの選手が広島カープに入団しています。今シーズンの後半大活躍したロサリオ選手がカープアカデミーの出身ですし、かつてニューヨークヤンキース等で大活躍したソリアーノ選手もカープアカデミー出身で、プロの第一歩は広島カープからキャリアをスタートさせています。

また広島カープが獲得する外国人選手ははずれが少なく、日本の野球に適合できる選手が多いのですが、日本にやってきた当初驚くような高額年俸を支払ったケースはほとんどありません。広島カープには選手を見極める目が備わっており、フロント側のこうした力によってチームの戦力を整えていく体制が出来上がっているのだと思われます。

ファンとして応援するチームはただ強ければいいという方がおられるのも事実ですが、一方で広島カープのように自ら選手を育てながら健全経営を維持するチームを支持するファンの方もおられる訳で、ここ数年広島カープの観客動員数は着実に伸びています。「カープ女子」という言葉に代表される、首都圏を中心とするカープファンの急増がメディアにも度々取り上げられるようになっています。今や神宮球場ではレフトスタンド、三塁側内野席は赤いユニフォームに占拠される状態となっており、巨人戦・阪神戦にとって代わる程のドル箱カードになっていますし、昨年の東京ドームでの対戦カード別の年間観客動員数は阪神タイガースを抜いて一位になっているようです。

セリーグの各球団は巨人戦を中心とするテレビ放映権料に頼るビジネスモデルからなかなか脱却できていませんでしたが、広島カープは強い危機感から、いち早くグッズの開発強化に乗り出し、入場料収入の他にグッズ販売や飲食収入を中核に据えるビジネスモデルへの転換を図り、今や10年前とは全く違う売上構成に切り換っています。

広島カープは1975年(昭和50年)の初優勝以降、1980年代全般を通して、山本浩二選手、衣笠祥雄選手、北別府学投手、炎のストッパー津田恒美投手などを擁する強豪チームでした。Aクラスの常連であり、1970年代後半から1990年代初頭にかけてリーグ優勝を6回、日本シリーズを3度制覇しています。しかし1991年の最後のリーグ優勝以降長らく低迷していましたが、昨年・今年と2年連続で3位となり、クライマックスシリーズを戦うレベルにまで戦力が整ってきています。

それに伴ないファンの数もどんどん増加しています。金の力で勝利を買わず、地道な努力でチームを強くしファンの共感を生むというスタイルは、我々日本人が心の底に持つ心情に訴えかけてくるものがあるような気がします。そして広島カープの行き方・あり方は、日本におけるプロスポーツビジネスのあるべき姿を示してくれているようにも思えます。来シーズン以降、緒方孝市新監督のもとで、どんな戦いを見せてくれるのか、大いに期待しながら見守りたいと思っています。

(おわり)
2014/11/10

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筆者プロフィール

fukuyama福山義人氏 元 (株)CSKホールディングス社長
株式会社マネジメント・サポート 代表取締役 福山義人氏1949年生まれ。慶應義塾大学卒業後、現(株)SCSKに入社。創業オーナー大川功氏に師事し、新規顧客開拓担当、営業マネジャー、管理部門マネジャーを経て、2005年代表取締役社長に就任。退任後、(株)マネジメント・サポート設立。現在は、創業オーナーに仕えた経験と自らの社長経験をもとに、若手経営者へのサポート及び講演活動等に従事。

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