【IT活用法】まさにERPの発想!クラウド使用で経費精算と管理会計の効率を上げたコンサルティング業I社

経営

グローバル化やIT化によって急速に世界の距離が短くなり、今まで日本を支えてきた産業や企業も、一歩間違えればまたたく間に衰退を余儀なくされる時代となりました。しかし一方で、ITを利用することによって新たな活路を見い出した企業もあります。このシリーズでは、ITの活用に成功した業績好調な企業をご紹介いたします。


外回りや出張、会食の多いビジネスパーソンにおいて、毎月地味にのしかかってくる作業がある。経費精算だ。領収書等の日付・金額・内容の入力にはじまり、電車やバス等の出発駅・到着駅の入力など、件数を溜めてしまうと相当の作業ボリュームとなる。経費精算をついつい後回しにしてしまい、締日間際に辛い経験をされた方は少なくないだろう。

都内でコンサルティング業を営むI社は、国内だけでなく海外の案件も手掛ける中堅ファームである。コンサルタントはクライアントに赴くことが多いため、1人当たりの経費精算は毎月膨大な件数に及ぶ。同社では設立以来、経費精算は専用のExcelフォームに必要事項を入力し、印刷した用紙に領収書などを貼り付け、上長の承認印をもらい経理に回付するフローだった。ただでさえ納期に追われ、忙殺されているコンサルタントにとって、経費精算はできれば避けたい作業の一つだった。またプロジェクト単位で稼働する業種ゆえ、プロジェクト別採算管理が重要であり、特に人件費と並んで大きな割合を占める発生経費のプロジェクト別集計が必要だった。これもまた経理側で地味に工数のかかる作業であった。

「コンサルタントは高付加価値の業務に集中すべきだ」。
I社の社長は経費精算と発生経費のプロジェクト別集計をIT活用により改善できないか模索し、クラウドツールの導入を決断した。効果は予想以上だった。

申請フォームをブラウザー上でI社仕様にカスタマイズできたため、従来の申請フォームをそのままデジタルに置き換えられ、導入時の現場の負担を大幅に軽減できた。またレシートなどをスマートフォンで撮影し、画像をOCR機能で解析して得られた金額や日付のデータを活用することで、申請者側の入力負担も軽減された。メリットは申請者側だけでない。承認者側においても、申請時に添付されたレシートなどの画像を確認し、外出先や出張先からタイムリーに承認することが可能になった。

さらに申請フォームの項目に、所属部門や関与プロジェクトの選択項目を入れておくことで、部門別・プロジェクト別に経費の金額を集計できるようになった。当該集計データを会計システムと連携することで、より精緻な管理会計も可能となった。従来は経費精算と管理会計が分断されていたため、管理会計のために経費の金額を、手作業で部門別・プロジェクト別に再度集計していたが、データ連携により一連の作業が一切必要なくなった。また、従来は経理側で締処理を行うまで、プロジェクト単位あるいは全社単位で把握できなかった経費の全貌が、入力の都度タイムリーに把握することができるようになった。

「導入により、クライアントの課題検討に向き合う時間が増えました」。
そう語るのは同社の中堅コンサルタントである。

本事例のポイントは、次の2点に整理することができると考える。

まずデータ入力の入口である申請フォームをカスタマイズすることで、一次データに会社の望む色を着けることが可能となり、状況に応じた管理会計に必要なデータが収集できた。次に経費データをクラウドに一元集約し、その一次データを後工程に転用した。これらはまさにERP(統合基幹業務システム)の発想である。

昨今クラウドツールの台頭により、ツール同士の連携が標準化されはじめ、ツール同士をつなぐことでERP機能の実現が可能となった。つまり中堅中小企業には高額で手を出すことが困難だったERP導入の敷居が大幅に下がったのである。

IT投資はERP導入など、時間とコストを多大に要する大掛かりなイメージがあるため、中堅中小企業にはなじみがないように思われがちだ。しかし、工夫次第ではI社のように、優先度の高い課題にフォーカスし、その部分に対しピンポイントでIT活用を推進することで、少額の投資で短期に大きな効果を得ることができるわけだ。そのため、まずは社内の課題の優先順位付けを行い、改善対象を絞り込むことから始めてみてはどうだろうか。

ITを活用した業務改善について関心のある方はこちらからご相談ください。

筆者紹介

アタックス税理士法人 公認会計士・税理士 酒井悟史

アタックス税理士法人  公認会計士・税理士 酒井 悟史
慶應義塾大学経済学部卒。公認会計士試験合格後、有限責任監査法人トーマツ・トータルサービス事業部を経て、 2014年アタックス税理士法人に参画。トーマツでは、監査業務の他、株式公開支援業務、業務プロセス効率化支援、 連結財務諸表作成支援等に従事。現在は、主に上場中堅企業の法人税務業務の他、相続対策や資本政策等に従事している。

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