成長戦略としてM&Aを成功させるには?~鍵を握る“PMI”その中身とは!

経営

M&A件数は、2021年度で4000件を超えており、2010年比で3倍弱と、この10年で大幅に増加しています。※出所:RECOFDATA

特に近年、中堅中小企業が買い手となるM&Aも増加傾向にあり、M&Aが成長戦略、事業承継、事業再生の当たり前の手段になりつつあることを体感しています。

M&Aの2つのステージ

M&Aと言うと、企業(事業)を買収・売却までのステージのことをイメージされる方が多いかと思います。当然に買収・売却の意思決定が最も重要なステージとなります。

M&A市場の成長とともに、M&A仲介会社やコンサルティング会社も増えています。読者の皆様も1社、2社頭に会社名が思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか。

それに伴い、書籍も含めて、プロセスや成功ポイントに対する情報が取りやすい状況になってきています。

M&Aにはもう一つ、買収した後の重要なステージが存在します。

PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)と呼ばれる、M&A前に期待した効果を実現するための「経営統合活動」を指します

買収後のステージで重要なこととは?

買収した後、期待効果を得るために何をしないといけないのか?どんなことが思い浮かびますでしょうか?

・退任する前オーナー社長の役割を誰が担うのか?
・重要な得意先との契約書が締結されていない
・どの商品がいくら儲かっているか見えない
・労務関連の規程が整備されていない
・月次の試算表が2ヶ月後にしか出てこない

一例として上記のような論点を含め、「えっ!そこ出来ていないの?」と驚くようなハードルが発生するのが、中堅中小企業の買収では通常です。

これらは、買収シナジーの実現どうこうの議論の前に、まず安定的に経営するためにクリアしなければならない問題です。

そこで本稿では、PMIとはどのようなものか?PMIを成功させるポイントとは?といった疑問について解説します。

中堅中小企業にとって大企業よりも不利になりやすいPMI

PMIのノウハウ等の情報は、買収・売却までのステージと比べると、書籍や外部専門家の数も少ない領域というのが実情です。

日本でM&Aを多く手がけ成功されている事業会社といえば、日本電産、楽天、ソフトバンク等がイメージしやすいかと思います。

こういったM&Aで拡大をしている企業の多くは、内部にPMIのノウハウや人材を抱え、それぞれの買収後のスタイルを確立されています。

一方、中堅中小企業は、1企業が買収する機会の数も限られ、専門人財を抱えることも困難であり、ノウハウ形成がしづらい傾向にあります。

結果的に、手探りでPMIを進める、あるいはPMIプロセス自体を実施しないことによって、期待効果が得られないケースも散見されます。

PMIにおける5つの活動

PMIの活動は会社の機能を想像して分類すると捉えやすくなります。

大きく分けると5つの活用に分けることができます。

  1. 経営管理のPMI
  2. 意識・風土のPMI
  3. 業務・ITのPMI
  4. 人事労務のPMI
  5. 経理財務のPMI

具体的な活動内容とは?

各PMIの活動内容の概略を掘り下げていきましょう。

経営管理のPMI

[具体的な活動例]
・買収後の組織構造の決定
・決済権限の定義
・シナジー実現に向けた実行計画の策定
・管理会計制度構築
・オーナーチェンジに対する契約書対応(チェンジオブコントロール条項対応)

意識・風土のPMI

[具体的な活動例]
・社員面談による心理的不安の除去
・経営方針の明示や人事制度構築をとおした企業成長への期待醸成
・PMI活動をとおした経営幹部の教育

業務・ITのPMI

[具体的な活動例]
・業務フローの視える化及び最低限の内部統制構築
・システム変更、統合対応
・アウトソーシングの検討

人事労務のPMI

[具体的な活動例]
・人事制度・教育制度の見直し
・採用方針の見直し
・労務関連規定の整備

経理財務のPMI

[具体的な活動例]
・月次決算制度の構築
・資金繰りの視える化
・現金預金管理における内部統制の整備
・経理関連規定の整備

PMI活動の工程目安

「えっ?そんなにやることあるの?」と思われるかとも思いますが、買収した会社(≒入口では理解が限定的な会社)を経営するには、一定水準パワーをかけてPMIをやり切ることが、中期的な買収効果実現につながります。

実務上はM&A実行後30日程度で詳細なPMI計画を立案し、緊急性の高いもの(例えば組織構造や契約書対応)を買収後100日目途に対応し、1年程度をかけて仕組みの構築及び運用定着を図っていくことが一般的です。

PMI5つの成功ポイント

筆者がPMIの実務で感じる、特に重要な成功ポイントは以下の5つです。

  1. 買収検討時点(特にデューデリジェンス時点)で買収後の課題を体系化しておく
  2. 自社としての統合スタンスを明確にしておく(親会社のやり方に合わせるのか?買収先企業に寄り添ったやり方に合わせるのか?)
  3. PMIの活動分類単位でプロジェクトチーム(分科会)を組成し、スピーディーに問題解決にあたる
  4. 仕組みの構築と同じだけ運用・改善にパワーをかける
  5. 時系列を経ながら、経営者→幹部→社員とPMIの活動に巻き込む範囲を拡大し、自分が変革に関わっている体験を醸成する

なお、1と2は買収前のデューデリジェンス(DD)や株式譲渡契約書(SPA)でも検討が必要となる点です。

M&Aは、売り手にとっても買い手にとっても大きなターニングポイントであり、特に中堅中小企業が中堅中小企業を買収するケースは、大きなリスクと成功期待を持った決断となります。

今後、より一層M&Aは身近なものになっていくことが予想されます。
既にM&Aに取り組まれている企業、これから取り組もうとされている企業の方々は、M&Aを成功させるために、自社流のPMIのあり方について考えられてみてはいかがでしょうか。

アタックスグループでは、M&Aの専門チームがご相談を承ります。お気軽にご連絡ください
 

M&A(買い手側)サポート

筆者紹介

株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 取締役
中小企業診断士 平井 啓介
業務系システムを扱う大手システムベンダーを経てアタックス入社。 システムエンジニア時代は、会計システムを中心に、中堅中小企業~上場企業まで業種を問わず、約60社の業務改革を支援。システム企画~導入・運用支援まで、プロジェクトマネジメントのみならず、現場の実態を理解したうえでのサポートを得意とする。アタックス参画後は、システムエンジニア時代に得たITスキル、ロジカルシンキングスキルを応用し、業績管理制度構築サポート、業務プロセス改革サポート(BPR)、事業再生サポートに従事。経営者、管理部門責任者の相談相手に注力している。
平井啓介の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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