企業体質を強くするコスト効率はこう上げる!~コストは削ってはいけない、意志ある予算化が大切

経営

2020年3月に初回の緊急事態宣言が発令されてから、約1年が経過しました。

1年前に着手したコストに対する取り組みによって、足元の業績に大きな違いを生み出された企業が、当社の支援先にもいらっしゃいます。

例えば、売上20億の製造業が年間50百万円(売上比2.5%)、売上10億のサービス業が年間30百万円(売上比3%)のコストダウンを実現されました。

コストが下がる分、利益を出すために必要な粗利が少なくて済み、損益分岐点売上高が下がります。

かつ、この効果は単年度だけでなく、継続的に続くと考えると経営に与える影響は非常に大きなものがあります。

もちろん両社ともにコロナ以前、無駄遣いをされていたというわけではありません。

そしてこれらのコストダウンは大規模人員リストラで実現されたものでもありません。

では、どのように大きなコスト削減を実現されたのでしょうか。

もちろん雇用調整助成金の活用等も含まれてはおりますが、これらの企業がとったアプローチは、非常にベーシックな手法を、組織的かつ当事者意識を持って、徹底的にやり切ったというものです。

逆にいえば、コストに関しては、ウルトラCがなくても愚直な活動の中で大きな成果を出せるとも言えます。

「そんなことはうちの会社でも当たり前にやっている」
という方もいらっしゃると思いますが、実際に結果を残した企業がどういった取り組み、行動をして成果を残されたのか、リアルな世界を本稿では取り上げます。

コストを削るのではなく、コスト効率を上げるための3つの分類化

まず、コストは当然ながら何でも削ればいいというものではありません。

当社では20年以上前から、コストの考え方として以下の3分類を使っています。

人件費

企業活動の源泉であり、生み出した収益に対する適正な分配が必要

戦略経費

中長期的な成長目線で使うコストであり、安易に減らすものではないコスト
例:採用、教育、プロモーション、設備関連のコスト

節約可能費

基本的にはコストの圧縮を目指す対象
 
 
コストも資産もそうですが、投入することでどれだけのリターン(売上・受注・生産量・不良率低減etc)を得るかが重要です。

まずは、損益計算書の科目毎にざっくりと、コストの分類を明確にし、適正水準でコントロールするものと徹底的に削減するものを分けましょう。

もちろん1科目の中に戦略経費と節約可能費が混ざっているケースがほとんどですが、細かい見える化が進んでいない場合は、ここが第一歩となります。

コスト効率を上げるための正しい見える化

コストの分類ができたら、次は細目での見える化です。

「見えないものは改善できない」

私が会計を使って経営改善をご支援する仕事を始めたばかりの頃、当時の上司から言われた言葉です。

この仕事に長く、深く携わるほどその重要性と効果を実感しています。

M&Aや事業再生で企業の財務調査をする際も、基本的に「細目での見える化」のやり方は同じで、手順はシンプルです。

1.損益計算書の1つ1つの科目の取引明細(仕訳)が記録されている、総勘定元帳をエクセルで出力する

2.摘要(備考)、補助科目、部門、取引先といった仕訳に紐づく付加情報を基に、コスト内容がわかるように集計する

3.科目毎に内訳を作ったものを一覧化して3ヵ年分程度並べる

4.経常的にかかるものと、一時的なコストに印をつける

5.戦略経費に該当するものは戦略経費の印をつける

一方で、実際やってみていただくと分かるのですが、なかなかの労力ですし、どのような単位で集計すると判断しやすいのかというのは、経験則が必要になってくる部分でもあります。

この取り組みを一度体験することで、経理の伝票処理は、単純に決算書を作るという観点ではなく、数字を経営に活かすためのやり方とは?といった観点に切り替わってきます。

コストを使う当事者主体のコスト効率向上プランの策定

コストの見える化が完了したら、次のステップはコスト効率向上プランの策定です。

ここでのポイントは2つです。

1.コストの全体削減目標を経営者が明確にする

2.コストを実際に使う当事者(部門長)主体で削減プランの積み上げを行い、全体削減目標に到達するまで、徹底的に繰り返し議論する

部門長も日頃コストを統制している当事者ながら、年間いくらかかっているのか?数字でしっかりと捉えられている方は意外と少ないものです。

このステップがコストに対する理解、意識の醸成といった幹部教育の一環にもつながってきます。

最初は、「これまでも無駄遣いしているわけではない」という認識の場合が多いので、なかなか削減策も目標まで積みあがってきません。

しかし、そこで「まぁこの程度が限界かな」と思考を止めず、3回、4回と検討を繰り返してください。

そうすると、これまではあえて触れなかった部分に触れる、見えていない部分を更に見える化し、余地を探すというように行動が変わってくるはずです。

コロナ禍を経て、地代家賃、電力料、旅費交通費、交際費、従来型の広告宣伝費等々、これまでの価値観から離れれば、抜本的に見直せる費目も多く存在しています。

正しくコストを使う日次・週次・月次でのPDCAモニタリング

コスト効率向上プランが策定されたら、最後のステップは週次・月次でPDCAのモニタリングです。

部門長だけでなく、社員1人1人がコストに対する意識を持たずして、目標は達成されません。

部門長や社員に意識、行動を展開していくやり方は以下のとおりです。

日次・週次

基準額を決めてコストに対する申請書・稟議書の運用を徹底する。
場合によっては、週次で稟議書検討会を短時間で行う運用とすることも有用。

月次

経営会議の場で試算表や業績報告書の振り返りだけではなく、コスト効率向上プランとの各項目対比での進捗状況とギャップに対する追加プランニングを協議する。
 
 
上記で言うと、月次側の取り組みはできているが、日次側の取り組みが形骸化しているケースが多いように見受けられます。

コストに対する門番役を社内で置き、徹底することで必ず効果は生まれます。

最後に、冒頭にも書きましたが、コスト効率の向上効果は、単年度だけではなく、長きに渡り経営に影響を与えます。

赤字の危機に陥り、真剣にコストと向き合った企業と、そうでない企業では、今後の企業競争力に大きな違いが出てくることは明白です。

そしてコスト効率向上に対する取り組みは、組織風土の醸成と社員教育にもつながる機会でもありますので、改めて皆様の企業の状態や取り組みについて考えてみてはいかがでしょうか。

顧客事例集(会計)

筆者紹介

株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 取締役
中小企業診断士 平井 啓介
業務系システムを扱う大手システムベンダーを経てアタックス入社。 システムエンジニア時代は、会計システムを中心に、中堅中小企業~上場企業まで業種を問わず、約60社の業務改革を支援。システム企画~導入・運用支援まで、プロジェクトマネジメントのみならず、現場の実態を理解したうえでのサポートを得意とする。アタックス参画後は、システムエンジニア時代に得たITスキル、ロジカルシンキングスキルを応用し、業績管理制度構築サポート、業務プロセス改革サポート(BPR)、事業再生サポートに従事。経営者、管理部門責任者の相談相手に注力している。
平井啓介の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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