“地銀再編”現実化に備えよ!~新政権の中小企業政策からの考察

地銀再編 経営

中小企業政策の具体的な政策とは

菅政権になって3ヵ月、良くも悪くも理念的な政策でなく、目先の課題に注力する実務的な政策を打ち出しているようです。

その中で、中小企業にとって関心があるのは、当然のことながら、中小企業政策でしょう。

菅政権は、中小企業基本法の改正等による再編・淘汰を通じて中小企業の数を減らし、生産性を向上させることを中企業政策の目標にしているといった報道もされています。

本当のところは分かりませんが、個人的な意見としては、最終的な目標は“生産性の向上”である以上、きちんと付加価値・利益を上げられる中小企業であれば、淘汰の対象となる懸念は、さほど気にする必要はないと思います。

また、中小企業は日本の雇用者数の7割弱を抱えており、政治の目的の一つが雇用の維持・創出であることを踏まえれば、一気呵成にやるのは困難で、時間軸を持った段階的な措置になるのでは、と考えています。

いずれにせよ、具体的な中小企業政策は見えてきていないのですが、それ以上に中小企業経営に大きな影響を与える政策が具体的に進んでいます。

それは地銀の再編です。

地銀再編がもたらす影響

地銀の再編は、中小企業にとって極めて大きなインパクトをもたらし、中小企業政策の本丸になりうるかもしれない可能性を秘めていると考えます。

地銀の苦境に対する政府の問題意識は、ここ数年の金融庁のレポートなどからも明白ですが、その解決策はいまだに見出されていません。

地銀の収益を改善する方法は考えるだけならシンプルです。
一般企業と同様、「収入の拡大」か「コストの抑制」です。

ただ、地域経済の縮小により収入拡大の余地は少なく、地銀は貸倒れを含めたコストの抑制に動くしかありません。

菅政権が進める地銀再編はその一つの解でしょう。

今のところ、地域地銀の統合は、持株会社を設立して、子会社の地銀はそのまま存続させるものが多いようです。

しかし、より厳しい競争圧力を受けた都市銀行(メガバンク)の殆どが、銀行本体統合に進んだことを考えると、地銀にもいずれ似たような動きは来るでしょう。

経験者が語る!銀行合併の傾向

まず、銀行同士が統合すれば、両者の目線の違いが明らかになります。

特に、昨今は企業ガバナンスが強化されていることもあり、慣行や馴れ合いで融資しているような取引は、まず統合相手行から最初にメスが入る可能性があります。

銀行の合併を経験した筆者は、合併の都度、銀行内で
「何故、この企業、この業種に貸す必要があるのか?」
といった、過去の経緯や前提をひっくり返したり、ひっくり返されたりするような事態を目の当たりにしたことが多々あります。

また、地銀の統合形態としては、同じ県内の地銀同士が統合する地域集中型と、複数県をまたぐ地銀が統合する広域地銀化が考えられますが、長期的な経営の安定化を考えると、広域化は免れないでしょう。

独占禁止法特例法の成立により、同一地域の地銀の統合が容易になりましたが、少なくとも経済が縮小する地域においては、地域内統合は時間潰しに過ぎず、いずれ広域統合に向かわざるを得ないでしょう。

十八銀行と親和銀行という同一県内(長崎)での統合が話題になりましたが、これもふくおかFGという大きな広域地銀の枠組みの中での話です。

広域地銀が増加してくれば、上記で記載した
「何故、この企業、この業種に貸す必要があるのか?」
という問題と併せて、時間経過とともに、
「何故、この地域(県)を重視する必要があるのか?」
という議論も必然的に発生してくるはずです。

地域金融機関とメガバンクの違い

これまで、地域金融機関とメガバンクとの違いは“地域へのコミット”でした。

過去、地銀の方から、“地域企業として潰せない”といった、良くも悪くも地域経済に対する強い責任感を感じる発言を聞いたことがあります。

広域地銀化は、おそらくこうした地銀の地域に対するコミットを相対的に弱め、 “ミニメガバンク化”が進むことを意味します。

一方、こうした再編が進まないとしても、このままではいずれ多くの地銀の収益基盤は厳しくなり、従来のような取引を継続できなくなる可能性は高く、結局は遅かれ早かれ、同じような局面に遭遇することとなるでしょう。

結果的には、誰からみても収益力と安全性を確保できている企業体になっておかないと変化に対応できない、ということですが、地銀の再編は、こうした動きを加速するものになると考えます。

中小企業が将来目指すべき姿

先述のように、中小企業政策も含め、こうした変化がごく短期間に発生する可能性は低いと思いますが、恐らく5年、10年後に振り替えると、随分と見える景色が違ってきた、と感じられるような変化があると考えています。

勿論、安易な中小企業の淘汰であるなら、賛同するつもりはありませんが、中小企業か大企業かに関わりなく、国内外の需給の環境や政治・財政環境は、今後大きく変わることに間違いありません。

現状維持や政策支援の拡大ばかりを期待していると、数年後には、上述の環境変化についていけず、中小企業政策云々言う前に、自然に淘汰される企業となってしまっていることでしょう。

コロナ禍による不要不急の行動を自粛する環境下、中小企業も将来戦略等を検討しにくい環境ではあります。

しかしながら、上に述べたような地銀の動きを踏まえて、5年後、10年後を見据えた、収益力・財務体力の向上に向けた取り組みは重要かつ喫緊の経営課題と考えています。

アタックスは、中小企業の経営者の皆様が、逆風にも負けない強い財務を作るためのお手伝いをいたします。ご相談はこちらからお問い合わせください。

筆者紹介

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株式会社アタックス 執行役員 金融ソリューション室 室長 松野 賢一
1990年 東京大学卒。大手都市銀行において中小中堅企業取引先に対する金融面での課題解決、銀行グループの資本調達・各種管理体制の構築、公的金融機関・中央官庁への出向等を経て、アタックスに参画。現在は、金融ソリューション室室長として、金融・財務戦略面での中堅中小企業の指導にあたっている。
松野賢一の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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