【IT活用法】インターネットの活用で世界に販路を拡大!社員2名の自動車用エアコンフィルター開発会社M社の事例

経営

大手メーカーが相次いで生産拠点を海外に移すなか、新たな販路開拓を迫られる中小企業が増えている。しかし、資金や人材が豊富な大企業に比べて、中小企業の販路拡大は容易ではない。優れた製品を持ちながらも、資金的、人的リソースから、単独での販路拡大が困難なケースも珍しくない。特に、海外に販路を拡大しようとする場合には、言葉や文化の違いに加えて、信頼できるビジネスパートナーを見つけることが難しく、多くの中小企業が途中で挫折しているのが現状だ。

しかし、そうしたなか、障害をものともせず、積極的に海外への販路拡大に挑戦する中小企業もある。名古屋で自動車用のエアコンフィルターを開発・販売するM社もその一つだ。

同社は、社長が前職で取組んできたエアコンフィルター事業をMBO(経営陣が参加する買収)して立ちあげたベンチャー企業である。M社が販売するエアコンフィルターは通常の製品では吸着できないPM2.5サイズの砕けた花粉であっても95%以上吸着することが可能で、しかも、大手メーカーが製造する同種の市販製品に比べて価格もリーズナブル。日本全国の整備工場やクルマの愛好家から支持され、売上も好調に推移している。

M社のビジネスモデルの特徴は実際に工場を持つのではなく、材料を仕入れて、協力先の工場に加工してもらい、製品化して出荷するいわゆるファブレス企業であるという点。最小限の投資と人員でスリムな経営を目指すM社には、社長のほかに女性社員が1人いるだけ。つまり社員2人でこのビジネスを切り盛りしているのだ。

M社が海外進出を目指すようになったきっかけは、全国に同社の製品が行き届くようになったことにある。社長曰く「全国制覇したから、次は世界進出を目指そうと思った」とのこと。

しかし、M社はリソースが豊富にあるわけでもなく、社長の英語も流暢というレベルではない。どのように海外進出を試みていこうかと考えていた際に、たまたま中国の販売先から、取引条件としてインターネットサイトを経由して購入したいとの要望を受けた。

そこで、先方から指定されたインターネットサイトに出品者として登録し、商品を出品してみたところ、注文を受けた中国の会社のほかにも、予想をはるかに上回る反響があった。これまでまったく取り引きのなかった国や地域のディーラーからも商品を購入したいという問合わせが数多く寄せられ、M社の社長はネットを通じた海外販路の拡大に可能性を感じた。インターネットサイトでの取引の場合、代金の前払いが慣習化しており、貸倒れのリスクを避けることができることも、魅力に感じた。

「これは使える」と思ったM社の社長は、製品説明や写真などを充実させ、本格的なサイト構築に着手する。少しずつ、取引先を広げていき、今ではM社は世界11カ国のディーラーと取引をするまでに到っている。海外との取引は、不安定な部分も多いが、急に大口の注文が入ることもあり、そうした大口受注が入ると月の売上の3分の1を海外売上が占めることもあるそうだ。

また、何度も取引を繰り返していくうちに取引相手が信頼できるかどうかもわかってくる。M社では、大口の取引を始める前に、相手が信頼に足る取引先かを見極めるためのパイロットテストとしてもインターネットサイトを活用している。

中小企業が海外に販路を拡大していくことについて様々な障害があるのは事実だ。しかし、人口減少や消費低迷といった国内の状況を見据えると、国内市場にしがみついていてもなかなか事態は好転しない。そうであれば、いかにリスクをコントロールしつつ海外市場にチャレンジしていくかという視点も中小企業には必要であろう。

インターネットやITの発展により、中小企業が自社製品を紹介したり、海外の取引相手を見つけるハードルは格段に低くなっている。優れた製品や技術があれば、中小企業でも世界で戦える、その一つのモデルをM社の事例は示しているのではないだろうか。

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筆者紹介

アタックス税理士法人 税理士 丹羽亮介

アタックス税理士法人  税理士 丹羽 亮介
東北大学経済学部卒。2004年、公認会計士試験合格後、監査法人トーマツに入社。新興企業へのIPO支援を主に扱うトータルサービス2部に所属し、監査業務をはじめ、上場支援業務等(予備調査、決算早期化、連結パッケージ導入支援等)に従事。
その後、2008年、トヨタ自動車株式会社に転職。経理部に所属し、株式グループの主担当として、トヨタが保有する1兆円を超える政策投資株式の管理や、500社を超える連結子会社・関連会社の判定ルールの見直し、株主総会の事務局などトヨタの投資政策、資本政策全般に係る幅広い業務を担当。
2012年、自分の学んできたことを活かして、中堅・中小企業の成長に貢献できる仕事がしたい、顔の見えるお客様に心から喜んでいただけるサービスを提供していきたいとの思いから、アタックス税理士法人に入社。

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