投注差とは?~中国子会社の「資金繰り」に関する重要ワードを知る

会計

投注差(とうちゅうさ)は、中国子会社の資金繰りに影響する用語です。

本記事執筆時点では、新型肺炎はまだ拡大しています。中国子会社の操業にも影響が出ているようです。操業が落ちると資金繰りも厳しくなる可能性がありますので、中国子会社への資金注入を規制する「投注差」について、以下で確認いただければと思います。

中国子会社が資金を必要とする場合、日本親会社が貸付することがありますが(この方法がメインだと思います)、限度額があり無制限に貸付できるわけではありません。

この限度額の計算には、二つの方法があります。

投注差と呼ばれるものと、マクロプルーデンスと呼ばれるものです。
二つのうちいずれかを選択して運用します。選択後は原則、変更することはできません。

本記事では、多くの企業で利用されている投注差方式について解説します。

①管理対象となるローンは?

中国子会社が国外の中国非居住者企業から借り入れする際のローンが対象になります。

日本親会社からの借り入れ(親子ローン)、日本にある金融機関からの借り入れ、日本の親会社以外からの借り入れが含まれます。

多くの中小企業においては、親子ローンがメインになりますので投注差規制=親子ローン規制のイメージで説明します。

②投注差の計算ステップは?

計算方法には、2ステップがあります。

ステップ1:投注差の総枠を計算
ステップ2:実際に親子ローンを実施する直前でその総枠のうち、どれだけ余っているか?を計算

どれだけ総枠があっても、余り枠がないとローンが実行できません。

③投注差の総枠の計算方法は?

投資総額-登録資本金

で計算します。

投資総額も登録資本金も中国子会社の定款に記載されていますので、それらを確認しながら計算します。

まれに、投資総額=登録資本金となっている中国子会社がありますが、これだと親子ローンをする枠がありませんので、定款を変更するなどして投資総額を広げる必要があります。

④余り枠はどう計算するか?

上記③で計算した総枠は、過去に親子ローンを実施していると、そのやり方次第では「消化」されていきます。

例えば、長期返済で親子ローンを実施した場合、毎月約定返済をかけて、5年後にそのローンが完済されていたとしても、当初に実施した親子ローンの金額は総枠から控除されてしまいます。

仮に、投注差総枠が100で、最初の長期ローンが100の場合、完済後も、総枠は100-100で0となってしまいます。つまり、新規の親子ローンは実行できない、ということになります。

短期ローンの場合は、完済すれば「消化」はされず、総枠は復活します。総枠が100で、短期ローンが100の場合、1年内に完済すれば、その時点で、総枠は100に戻ります。よって、新たに貸付することが可能です。

長期か短期かの選択は重要ですのでご注意ください。

⑤投注差の枠がないときに、どうするか?

投注差の枠に余りがない場合、主に2つの方法で対応します。

一つは、投注差管理の対象にならない借り入れで調達する、もう一つは投注差の総枠を拡げる、です。

投注差管理の対象にならない借り入れの代表的なものには、中国で展開する日系金融機関から中国子会社が直接借り入れるというものです。

実際には、日本親会社が債務保証をして実施することになるようですので、保証料というコストがかかりますが、一つの方法ではあります。

投注差の総枠を拡げる方法には、増資があります。

増資をすると、投資総額を増資額以上に増やすことができるので、投資総額-登録資本金が増加します。これにより、増資額+親子ローン拡大枠の資金を注入することができるようになります。

なお、増資により投注差をどれだけ拡大できるのかについては、文書ベースでは、以下のようになっています。

Q:当社は投資総額200万米ドル、登録資本金140万米ドルの会社である。今回140万米ドルを増資するが投資総額はどうなるか?

A:以前は企外字[1987]第54号で、増加資本金の金額で投資総額を逆算していたが(140万米ドル÷0.7=200万米ドル、新増投資総額は200万米ドル)、現在は廃止されている。

企外字[1987]第54号は、

《国家工商行政管理局企业登记司关于《国家工商行政管理局关于中外合资经营企业注册资本与投资总额比例的暂行规定》第五条解释的复函》

という文書です。

この文書は、登録資本金と投資総額の比率について規定したものですが、投注差は投資総額と登録資本金の差額ですので、上記の文書で計算される差額を以て投注差としていました。

70%というのは、投資総額と登録資本金の比率制限です。投資総額300万米ドルまではその70%の登録資本金を要求されます。300万米ドルを超えるとその金額によって比率が変わります(段階的に50%、40%などと要求される比率は下がります)。

かつては、この文書の規定にしたがい、増加資本金の額から逆算して、新増の投注差を計算していました。廃止前は、増加投資総額200万米ドル-増加資本金140万米ドルの60万米ドルが増加する投注差となっていました。

しかし、廃止されたことにより、地域にもよりますが、現在では増加後の登録資本金総額から投資総額を計算できるようになっているようです。

つまり、上記の例だと、増資後の登録資本金総額が280万米ドル(140万米ドル+140万米ドル)になりますので、それに対応する投資総額は560万米ドル(280万米ドル×0.5)まで可能です(金額が増えますので、70%の比率制限が50%に下がります)。

このため、総投注差は280万米ドル(投資総額:560万米ドル-登録資本金総額:280万米ドル)となりますので、設立当初の投注差である60万米ドルが消化されていたとしても220万米ドルまで貸し付け可能額が拡大します。

とはいえ、地域にもよりますので外貨管理局に確認しながら計算する必要があります。

親子ローンは中国子会社の資金繰りを支える重要な方法ですので、それに関連する規制である投注差などについても押さえておいていただければと思います。

アタックスグループでは、中国子会社の税務や経営の問題を解決します。
専門家へのご相談はこちらからご連絡ください。

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筆者紹介

株式会社アタックス 執行役員 海外サポート室 室長 諸戸 和晃
ミサワホーム勤務を経てアタックス入社。株式公開、企業再生、M&A支援等のコンサルティング業務に従事。2011年より2年間北京赴任。赴任中は北京中央財経大学への語学留学、中国系会計事務所「中税咨询集团」(北京)で業務。帰国後、海外サポート室の室長として、中堅中小企業の海外進出に関する支援業務に注力している。
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