「ジョブ型」人事制度設計の留意点~流行ではなく自社流を追求せよ!

人材育成

筆者は評価制度や報酬制度、いわゆる人事制度の構築支援を行うコンサルタントです。近年、「ジョブ型」の人事制度に関する話題が増えてきています。
春闘の時期でもあり、新聞に記事が載らない日が無いほどです。主に大企業中心に導入が進んでいますが、中堅中小企業の経営者や人事担当者から相談を受けることも多くなってきました。

そこで、今回は、ジョブ型の考え方、そして評価制度を設計する際の注意点をお伝えしたいと思います。

「ジョブ型」人事制度の考え方

まず、ジョブ型の一般的な定義から確認しましょう。

【ジョブ型】
仕事(ジョブ)を詳細に定義して、その「仕事」を遂行できる社員を割り当てる人事管理

相対する言葉にメンバーシップ型がありますので、合わせて確認します。

【メンバーシップ型】
仕事を明確には定義せず、「社員」のポテンシャルに応じて仕事を割り当てる人事管理

役割分担のスタートが、仕事か人かという点で異なると説明することもできるでしょう。

ご存じの通り、多くの企業ではメンバーシップ型で人事管理がなされてきました。筆者自身も、当社に入社した当初は税務アシスタントを担当し、人事コンサルタントになるキャリアビジョンを描いていたわけではありません。

「メンバーシップ型」人事制度の課題

メンバーシップ型は、事業の変化や組織の拡大に合わせて異動をかけやすいというメリットがありますが、労働契約が曖昧になりがちです。

メンバーシップ型の労働契約を「(仕事の役割分担について)無限定契約」と表現する人もいます。

メンバーシップ型の報酬は、主に能力・ポテンシャルと連動し、仕事の役割分担やパフォーマンスが反映されにくいという指摘は以前からありました。

正規社員と非正規社員で同じ仕事をしているのに報酬が異なること(いわゆる同一労働同一賃金問題)も散見されるようになってきています。

ジョブ型がクローズアップされ始めた背景には、こうしたことがあります。

「ジョブ型」人事制度の本質とは?

報道で目に付くのは、主に大企業でIT系人材を採用するために高額の報酬設定をするジョブ型人事制度です。

もちろん、採用強化を制度改革の目的にすることは間違いではありませんが、「ジョブ型=一部プロフェッショナル向け高額報酬人事管理」と限定されたイメージで世間に広がっているような気がしてなりません。

ジョブ型は、仕事(ジョブ)の定義化、詳細化、つまり見える化を通じて、社員の仕事に対する動機付けを図ることが本質であり、そのメリットを自社なりに検討することが重要です

したがって、ジョブ型を考える際、見える化ツールとしてジョブディスクリプション(職務記述書)を作ることは必須です。

どこまで詳細に作りこむか、社員を動機付けしやすいフォーマットはどの様なスタイルかを社内で検討し、是非、自社にあったものをお作り頂きたいと思います。

「ジョブディスクリプション」を「評価制度」に連動する際の注意点

ただ、ジョブディスクリプションを評価制度に連動させる場合は、少し、注意して欲しいことがあります。それは、評価項目を詳細に作りこみすぎると「これだけやればよい」という間違った認識を生む可能性があるということです。

昔、ある会社で評価制度構築に携わり、評価項目洗い出しの場面で質問を受けたことがあります。
「たった10~15個の評価項目で、100点満点の人財像を表現するのですか?」

答えは「NO」です。もちろん、できるわけがありません。
評価項目に表現されるのは、優先順位が高い期待事項です。

職種ごとのジョブが100~200個あるディスクリプションを作成すると、100点満点の人財像を表現できたと錯覚して、ジョブ項目をそのまま評価に連動させてしまうリスクがありますので、注意が必要です。そもそも、いくら詳細にジョブを定義しても、100点満点の人財像を表現することはできません。

「ジョブ型」で評価制度を設計する際の解決策

では、どうすればジョブディスクリプションと評価制度を適切に連動させられるのか。
提示できる解決策は2つです。

「目標管理」の要素を取り入れる

一つは、目標管理の要素を取り入れることです。

ジョブディスクリプションや評価シートに予め詳細に決めきれない事柄や社員への期待事項は、評価期間に合わせて、上司と部下がすり合わせをして決めていけば良いのです。

目標設定面談などの手間が発生しますが、コミュニケーション強化にもつながる方策です。

「情意考課」の要素を取り入れる

二つ目は、評価項目に情意考課の要素を取り入れることです。

情意考課とは、積極性、協調性、責任感といった主に勤務態度に関する評価項目です。

ジョブ型の人事制度の概念から逆行するように感じるかもしれませんが、どこまで評価項目を詳細にしても100点満点の人財像を表現できないならば、評価対象をあまり限定しない柔軟な評価要素を残しておくべきです。

情意考課は抽象的な評価項目で、評価エラー(ハロー効果など)が起こりやすい仕組みです。故に、見直しをしたいと我々に相談をされるケースもありました。

しかし、要はバランスです。どちらか一方に偏った仕組みは、悪影響が起きると考えます。過ぎたるは及ばざるがごとし、です。

中堅中小企業はハイブリッドを目指す!

筆者は、これからの日本で、ジョブ型に偏りすぎた人事制度設計が進むことは危険だと考えています。

大きな理由の一つにジョブ型では経営人財が育ちにくいということがあります。

もちろん経営のジョブを定義して、外部から採用する道もありますが、それができるのは今のところ大企業だけでしょう。

中堅中小企業は、メンバーシップ型とジョブ型のハイブリッドを目指すことが必要だと思います。

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人事・評価・報酬制度改革

筆者紹介

株式会社アタックス・ヒューマン・コンサルティング 取締役副社長 永田 健二
1999年 静岡大学卒。中期経営計画策定支援、組織風土分析支援、人事制度構築支援、人事制度運用支援などに従事。新入社員研修、中堅社員研修、管理者研修、各種個別研修など研修講師としても活躍中。
永田健二の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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