“コーチング”が経営者に必要な理由とは!~「自問自答と対話」の違い

人材育成

私は、主に経営者や後継者を対象とする経営コーチです。
今日は、コーチングについてその本質をお伝えします。

貴方は次のような体験をしたことがありませんか?

仕事やプライベートに問題を抱えていたあなたは、悩み続けた末に信頼できる友人に悩みを聞いてもらいました。友人はあなたの話を我がことのように聞いてくれています。
貴方は溜まりにたまった悩みを半分くらい話し、吐き出したことで少しずつ心が楽になってきました。
すると内なる自分の声が聞こえて問題解決方法が閃きました。そしてやるベきことが明確になり、落ち込んだ心が開放されました。

この状態をオートクラインが働いた状態と言います。

友人は解決方法を授けてくれることはありませんでしたし、友人がしたことといえば傾聴したことと質問したこと、たったそれだけです。

オートクラインとは

オートクラインとは医学療法に使われる言葉ですが、コーチング用語として転用されています。

コーチングの観点からは「自分が発した内容を自分で聞くことで、今まで気づかなかった自分の考えに気づけるようになること」という意味で多用されています。

コーチングにおいては相手の頭の中をオートクラインの状態にすることが究極の目的といっても過言ではありません。

貴方の頭の中で起きていたことは、複雑に絡み合った問題を自らが順序だてて一つ一つの要素に分解したこと、そしてそれを「言語化」又は「文章化」して友人に説明したことです。

つまり思考を整理し説明したのです。

友人がしたことは、貴方に興味をもって話を「聞いてるよ」という姿勢のもと、「それでどうなった」「その時どのように感じた」などの言葉をかけ、適切なタイミングで相槌をうちながら絡み合った問題を貴方が自ら言語化できるように良い聞き手に徹したことです。

コーチングのプロセス

コーチングのプロセスは、コミュニケーションを介して行われます。

コーチと相手の間で行われるコミュニケーションのプロセスを明示すると「傾聴」「質問」「承認」に分けることができます。

まずは相手の心理状況状態を観察し「傾聴(話を聞き切る)」「効果的な質問」をし「承認」します。

その際相手の内省を促し内省したことを相手自身が言語化し、自発的な行動変容を促すことによって相手が得たい成果に近づけていきます。

単一方向(自問自答)

世の中は毎日質問で溢れているといっても良いでしょう。

例えばあなたは朝起きたときに「今日はどの服を着て出勤しようか?」「ランチは何を食べようか?」など、自問自答しています。

一体あなた自身は1日に何回の自問自答をしているのでしょうか?

大切なのは自問自答の質はどの程度進化しているか?ということなのです。

思考には自分の経験則から積上げた一つのクセが存在します。

そのクセはよほどのことがない限り固定化されるため、イコール思考も固定化される傾向にあります。

例えば「自分の都合のいいように考える」「簡単な方向に意識を向ける」「見たいように見る」などが挙げられます。

自分に都合の悪いことに意識は向きづらいのです。

よって、単一方向の自分の殻から抜け出し、視点を変えた質問の質の向上が求められます。

双方向(対話)

自問自答の限界を超える方法として、対話による思考変化が考えられます。

自問自答は「ひとり」であるのに対し対話には「相手」が存在します。

必ずしも自分にとって好ましくない質問を投げかけてくれるのは自分ではなく「相手」のはずです。

だれしも「心に刺さる」「ハッとさせられる」質問を投げかけられた経験はあるのではないでしょうか?

良い意味で相手の思考に不安定をもたらすことで新たな自分に気づきを与える役目がコーチなのです。

2019年ダイヤモンド社から出版された「1兆ドルコーチ」(エリック・シュミット他著)では、アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏など、シリコンバレーのレジェンドを名経営者に導いたコーチであるビル・キャンベルの姿を描いています。

その業界では知識も知恵も世界一といわれる名だたる経営者は例外なくコーチを雇っています。

この本の一説をご紹介します。

「相手に全神経を集中させ、じっくり耳を傾け、相手が言いそうなことを先回りして考えず、質問をとおして問題の核心に迫れ。」

まさに相手の思考に焦点を合わせる重要性を示した言葉だと思います。

経営へのインパクト

「エグゼクティブ・コーチングは本当に経営にインパクトを与えるのか?」(※)という興味深いリサーチリポートがあります。

※株式会社コーチ・エィ コーチング研究所、二松学舎大学 小久保欣哉准教授による共同研究レポート

そのリポートによると、経営層がコーチ・エィのコーチングを活用した企業(60社・以下「活用あり会社」)と、その比較対象群となる企業(1,604社・以下「活用なし会社」)の3年間の経常利益額の伸び率・経常利益率の伸び率を比較した結果、以下表の通りでした。

   活用あり会社   活用なし会社 
経常利益額の伸び率  10.6%   1.2% 
経常利益率の伸び率  1.2%   ▲2.9% 

経営の結果は財務に現れますから、経常利益や経常利益率に注目するのは客観的であると考えればその結果は明白です。

「活用あり会社」の経営者へのインタビューで興味深いのは、

  • 自分の気づいていない自分の意思が明らかになった。(中略)考えていることを言語化して伝える機会が少ないとコーチングで気づかされた。
  • パラダイムシフトの中で視座を上げることができ(中略)大きな変革を考えることができるようになった。
  • コーチングは人的資源を向上させる利点がある。経営成果に対する効果が一番出てくるのではないか。

と、経営者自身も経営へのインパクトを指摘している点です。

前出の「1兆ドルコーチ」には次のような一説もあります。

「有能なマネージャーやリーダーになるためには、有能なコーチにならねばならない。コーチングはもはや特殊技能ではない。有能なコーチでなければ、有能なマネージャーではいられないのだ」

コーチングはいまや一定の資格保有者のみに与えられた技能ではなく、広く一般に求められる後継者育成・人財育成の要件になっていると思います。

VUCAの時代

経済・ビジネス・個人生活に至るまで、複雑性が増して将来の予測が困難な時代に突入しました。

今までの常識が非常識となりつつある今は、経営者にとっては多難な状況になることが予想されています。

「自問自答」に加え他者の伴走による「対話」がより一層求められています。

最近の相談事例をご紹介します。

・学校教育に限界を感じ、自分の理想と現状との狭間でもがく中堅教師
・家業の3代目社長に就任するも、業績が芳しくなく様々な問題を抱える若き経営者
・平和な世界を理想とし、世界で起きていることを体感すべく欧州・南米を見て回る若き起業家
・社長に就任するまでに不得意な財務の知識を身に着ける方法を探っている後継者

アタックスでは「アタックス経営コーチング」サービスをご提供しております。

筆者紹介

アタックス税理士法人 主席コンサルタント (一財)生涯学習開発財団認定コーチ 岡田昌樹

アタックスグループ主席コンサルタント (一財)生涯学習開発財団認定コーチ 岡田昌樹
1985年 名古屋商科大学卒。入社以来、一貫して税務関係業務に従事する。専門性の高い税務を噛み砕いて判りやすく指導する事に定評があるとともに、幅広い顧客のサポートをしてきた経験から最近では特に中小企業が抱える諸問題の相談に軸足をおいて活躍中。「face to face」を基本に、社長の身近な存在であり続けることがモットーである。
岡田昌樹の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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