経営者は、社員への“メッセージ”を熟考せよ!

人材育成

時代の変化と共に、新種の経営手法が次から次へと話題となり、企業はそのたびにわれ先とばかりに導入する。しかし、流行りも一定地点に達すると、振り子の原理に習ってゆり戻しがくるのが常である。中でも“成果主義”は、その現象が顕著であった。

一時期、ずいぶん悪者扱いされた感のある“成果主義”。その四文字が久々に新聞を飾った。外食のサガミチェーンは、2012年度1月期中に、直営する153店を対象に“成果主義”の賃金制度を導入するという。既存店の売上高が伸び悩み赤字決算が続くなか、現場の士気を高めて業績改善に結びつけることが狙いである。

その中身は、目標利益と実績との差の一定割合を店に配分し、店長が自己裁量で配分する。たとえ利益目標を下回っても賃金を下げることはしないため、プラスにのみ働く“成果主義”であることが強調されている。一方で、昇格の条件にも個人の営業成績が加味されるなど、店舗ごとの利益と賃金を明確に結びつけることで、目標達成の意識向上を目指したい考えだ。

企業は、いつの時代もどこまでいっても“成果主義”、いや“結果主義”である。利益なき存続などありえないからだ。そこに異論の余地はない。しかし重要なことは、その利益の源泉がどこにあるのか、誰が握っているのかということである。

この事例でいえば、当然利益の源泉は店舗にあり、サービスの提供に関わるすべての社員が利益創出の鍵を握っている。つまり、ここで取り違えてならないのは、顧客満足の結果として利益が獲得できるという極々当たり前の原理原則である。したがって、社員に求めるのは利益ではなく、“顧客満足”であるべきだ。更には、小手先の“顧客満足”ではなく、継続して“顧客満足”を獲得し続けるための、意識改革であり提供サービスの向上である。

会社にある様々な制度の中で、人事制度ほど経営者の思想や価値観が丸見えになる制度はない。ネーミングも“メッセージ”の一つである。したがって、新たな制度を導入するという時には、その本質や意図が正しく伝わる言葉をよくよく吟味することが大変重要である。

今回の事例に登場した “成果主義”。過去において「業績不振企業が行った人件費抑制策」というイメージが染み付いたこの言葉はあまり効果的とは思えない。あえてネーミングするならば、「顧客満足の結果として得られた利益の一部を還元する制度」という意味で、“顧客満足還元主義”というのはどうだろうか。

経営者は、今後これまで以上に変革を迫られ、新たな経営手法や制度導入を求められる。その中で大切なことは、実現したいことの本質を見誤らないこと、そして意図を伝えるに最適なメッセージを熟考することである。

<参考記事>
「外食のサガミチェーン 直営店賃金に成果主義」
2011年2月26日(土)日本経済新聞 朝刊

筆者紹介

株式会社アタックス 執行役員 中小企業診断士 北村 信貴子
1963年生まれ。中小企業診断士、産業カウンセラー、BCS認定ビジネスコーチ。大手食品メーカー勤務後、アタックス入社。中堅中小企業を対象に経営診断や人事制度設計運用・人材育成業務に従事。現在は、後継者育成、管理者教育、女性リーダー育成を中心に実践型の教育訓練・能力開発に特に注力。講演・セミナー実績多数。受講者との対話を通じて理解を深めていく迫力ある指導には定評がある。
北村信貴子の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

タイトルとURLをコピーしました