朗報か呪縛か!「事業承継税制で税金ゼロ」の効果と落とし穴

事業承継

平成30年税制改正が3月末に国会で可決され、新たな事業承継税制がスタートしました。
この税制は、昨年の税制大綱が公表されたとき「自社株の相続(贈与)に税金がかからなくなる」と大きな話題にもなりました。

【税制の概要】
中小企業の株を先代経営者等から後継者に贈与(もしくは相続)で譲る場合に、一定の要件のもと、贈与税(もしくは相続税)が全額猶予できます。

従来は、贈与者の範囲は先代経営者のみでしたが、「それ以外の者」(例:配偶者、同族関係者等)からの贈与も対象となりました。
また贈与を受ける後継者も最大3名まで適用可能となりました。

後継者は納税猶予を継続するために、自社株の承継後5年間は従業員の雇用を平均80%以上確保し(確保できなかった場合はその理由を提出)、次の世代に引き継ぐまで株式を持ち続けることが要件の一つとなります。

株を手放す場合、納税猶予の期限が確定し、承継時の評価額で税金を支払うこととなります(今回の改正で5年経過後に経営不振等の一定の要件により株式を手放す場合は、評価額の再計算を行うこととなりました)。

先代経営者が亡くなった場合は、贈与税の納税猶予は免除され、選択により相続税の納税猶予に切り替えることができます。

ところで、この制度を適用するにあたって絶対に外してはいけないポイントがいくつかあります。
今回はそのポイントの中から特に重要な2つについて解説します。

◆外してはいけないポイント1 ~贈与が制度の中心~

今回の制度は、平成39年12月末までの特例であり、かつ平成35年3月末までに都道府県に承継計画を提出し承認を受ける必要があります。
期限が決められているものである以上、いつ発生するかわからない相続ではなく、計画的に準備のできる贈与が制度の中心になります。

一般的に、財産を受け取る場合、相続より贈与の方が税金は高くなります。
例えば、総額3億円の株を贈与で受け取った場合の贈与税は1.58億円、相続で受け取った場合の相続税は0.9億円となります。

納税額を全額猶予できるとはいえ、猶予額が高額な場合、万一、取り消しとなった場合の税負担が高いものとなります。
また将来、贈与から相続に切り替わったとしても、相続の対象となる株式評価額は引き継がれます。

したがって、この制度を利用する場合でも、株価対策後に適用することが重要と考えます。

◆外してはいけないポイント2 ~後継者の選定について~

後継者の範囲が広がり、安易に複数の後継者に株を分散させることは将来のリスクになりかねません。

例えば長男と次男を後継者として株式を渡した場合、将来にわたって二人で経営を続けられるのか、またどちらかに相続が発生した場合の株の行方はどうなのか等の問題を抱えることになります。

これらは、本質的にこの制度の選択の問題ではありませんが、この制度を選択することによって、猶予の継続(税金を払いたくない)という思いが働き、対応策が硬直化してしまう恐れがあります。

したがって、後継者を誰とし、その体制をどのように整えていくかという、もっとも基本的なところを押さえた上で実行すべきです。

上記以外にもいくつかポイントが有りますが、まだ始まったばかりの特例制度です。
節税を強く意識して、やみくもにこの税制を活用した結果、後々取り返しのつかないことになっては元も子もありません。

承継にあたってこの制度を有効に活用するシナリオを慎重に設計することが大切です。

実務の現場で皆様から数多くの質問をお受けします。
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自社株にまつわる恐怖からの脱出法

筆者紹介

アタックス税理士法人 代表社員COO 税理士 愛知 吉隆
1962年生まれ。中堅中小企業から上場企業に至るまで、約800社の税務顧問先の業務執行責任者として、税務対応のみならず、事業承継や後継者支援、企業の成長支援等の課題や社長の悩みに積極的に携わっている。
愛知吉隆の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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