相続税の増税改正にどう対処すべきか?~安易な相続対策に警鐘!

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平成27年1月1日以後の相続から相続税が改正され、新聞や雑誌、ネットの記事などでも「相続対策」の記事を見かけるようになりました。

一時期、タワーマンション節税が過熱気味だったのも「相続対策」に対する関心の高さの表れです。
(この節税策は、既に国税当局側で対策が講じられています。)

「相続対策」では、一般的に3つの対策を検討します。

(1) 納税資金対策(相続税の納税資金を確保するための対策)
(2) 財産圧縮対策(相続税の対象財産の価値を下げて納税額を圧縮するための対策)
(3) 遺産分割対策(相続財産の分け方に関する対策)

これらの対策には、一定のセオリーはあるものの、絶対唯一の方法があるわけではなく、当事者の状況に応じて、最適な選択は変わってきます。

しかし、手軽に得られる情報をもとに実行できるものもあるため、専門家に相談せずに、ご自身で相続対策をされる方もいるようです。

今回は、そのような対策の中で、後から問題が発生したケースを2つご紹介します。
これらは、問題発生後に私が相談を受けた実例です。

1つ目は、上記の(2)財産圧縮対策の一つで、オーナー経営者が保有する株式を従業員持株会に売却したケースです。
非上場株式の評価は、通常、買い手によって評価額が変わります。

簡単に言えば、買い手が少数株主のときは安い評価額、オーナー家など筆頭株主グループのときは高い評価額になるのです。

この考え方を活用し、少数株主である従業員持株会を設立し、オーナーが従業員持株会に安い価額で株式を売却すれば、その株式を保有し続けるよりも相続税の対象財産が圧縮されます。

また、従業員にとっても勤務先の会社の株式を持つことで経営参画意識が醸成され、経営の面においても良い対策です。
しかし、今回のケースでは従業員持株会のシェアが問題になりました。

従業員持株会とそれ以外の第三者株主を合わせると、40%近くのシェアになってしまったので、何とか買い戻したいというご相談でした。

従業員持株会を活用する場合は、オーナー家として67%以上の議決権を持つなど、会社のガバナンスの確保についても同時に検討しなければなりません。

また、オーナー家が買い戻すにしても、従業員持株会へ売却するときよりも高い評価額となるため、簡単には実行出来ません。
現在、様々な検討を加え、この問題解決に当たっています。

2つ目は、上記の(3)遺産分割対策についてです。
この会社は、早くからご子息の一人を後継者に決めて、生前から贈与という形で株式を承継されていました。

ある時期、会社の業績が悪化したことで、株価も下がったため、一気に後継者への贈与を進めました。

その後、後継者の経営手腕もあり、会社の業績が回復、かなりの優良企業に成長しました。ところが、その矢先に先代が亡くなり、相続が発生しました。

先代は後継者以外の相続人にあまり財産を残さなかったため、遺留分をめぐる兄弟間の争いが起きてしまったのです。

遺留分とは、民法で決められている相続人が最低限相続できる割合のことを言い、「法定相続分の2分の1」に相当する金額に満たない場合、その相続人は多く貰っている相続人から財産をもらうことができます。

しかも、遺留分は、通常、相続時の評価額で算定します。
このケースでは、会社の成長に伴って贈与した時より株式の評価額が上がっており、その値上がり分も遺留分の対象になってしまいました。

こちらも、現在、相続人の間で円満な解決に向けて、様々な解決策を検討しています。

ちなみに、株価が下がった際に、贈与ではなく譲渡(売買)で財産を移転させていたら、結果は違っていたかもしれません。

このように「相続対策」は、様々な角度から判断して策を講じることが必要です。

それがトラブル回避につながり、会社やオーナー一族にとって最適な相続対策の実現につながります。

アタックス税理士法人(東京・名古屋・大阪)では、オーナー経営者の皆様の相続対策や経営承継の様々な課題について常時ご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください。

筆者紹介

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アタックス税理士法人 主任コンサルタント
稲木 武雄 (いなき たけお)
2000年 金沢大学卒。ベンチャー企業から上場会社まで幅広い会社の税務顧問業務を担当、また、組織再編成実行支援といった特殊税務や相続対策などの資産税についても幅広く対応、総合的な税務コンサルタントとして活躍するプロジェクトマネージャー。

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