全額損金可能な節税保険にメス!~国税庁の通達意図とその影響

税務

国税庁は今年に入り、いわゆる節税保険の法人税法上の取り扱い(通達)の抜本的な見直しを公表しました。

2月13日の夕方に国税庁の担当者から生保各社に通達見直しが伝えられ、それを受け生保各社は14日以降全額損金計上(以下、「全損」といいます)型の保険の販売自粛もしくは販売停止を行い、「バレンタインショック」と揶揄され新聞紙上をにぎわしました。

従来は、基本通達をベースにしつつ、新たに商品化される保険が問題視されると個別通達を発令し対処してきました。

しかし、今回は基本通達そのものを改正し、個別通達は廃止される予定です。

国税庁はなぜ「節税保険」にメスを入れたのか?

そもそも節税に利用される保険として、定期保険があります。
定期保険は、死亡や高度障害の状態になったとき保険金が支払われ、満期になっても保険金は返還されないことから、支払いの都度、費用として損金計上されるのが原則です。

通常、定期保険の保険支払額は、加齢により増額していきます。
そこに、保険期間の保険支払額を一定(平準化)するものや逓増するものが現れました。

金額が平準化されれば、保険期間の前半に支払う保険料の中には、前払い部分が含まれるため、途中解約すれば解約返戻金が発生することになります。

この仕組みを利用すれば、解約返戻金がピークの時に解約することで、保険支払による経費を先に計上し、解約返戻金による収益を後に計上することが可能でした。

節税保険

つまり、税金の支払いを遅らせることが可能だったのです。

しかしこれらが行き過ぎた節税と非難されるようになり、個別通達で、長期平準定期保険の保険金の一部を長期前払費用として資産計上する(損金にしない)ようルールが変更されました。

その後、次々と通達をかいくぐるような保険が開発される度に、個別通達が見直され、保険会社と国税庁とのイタチごっこの様相を呈していました。

今回、国税庁が公表したのは、基本路線を明確に示すことを目的としたものといえます。

具体的な改正案とは?

4月に公表された改正案の骨子は次のとおりです。

○保険料のうち、資産計上にする期間・金額を
 保険期間の最高解約返戻率で区分する
○医療保険等の第三分野の保険も同様の取り扱いとする

具体的には、保険期間が3年以上の定期保険(または第三分野保険)で最高解約返戻率が50%を超えるものが対象で、

(1) 50%超70%以下
(2) 70%超85%以下
(3) 85%超
の3つパターンの取り扱いを定めています。

(1) 50%超70%以下
【資産計上期間】
 保険期間の開始から40%に相当する期間まで
【資産計上額】
 支払った保険料の40%を資産計上(前払費用)、残額を損金計上
【取り崩し期間】
 保険期間の75%相当経過後から終了までに均等に取り崩し

(2) 70%超85%以下
【資産計上期間】
 保険期間の開始から40%に相当する期間まで
【資産計上額】
 支払った保険料の60%を資産計上(前払費用)、残額を損金計上
【取り崩し期間】
 保険期間の75%相当経過後から終了までに均等に取り崩し

(3) 85%超
【資産計上期間】
 保険期間の開始から最高解約返戻率となる期間の終了まで
 ただし資産計上期間が5年未満の場合は5年経過まで
【資産計上額】
 支払った保険料の最高解約返戻率×70%を資産計上(前払費用)、残額を損金計上
【取り崩し期間】
 解約返戻金額が最も高い金額となる期間経過後から終了までに均等に取り崩し

今回は解約返戻率に着目し、通達を整備しているため、いままでのように個別通達の射程範囲から逃れる保険商品を開発するといったことはなくなります。

今後、保険を使った節税は少なくなると考えられます。
保険の本来的な意味を考え直し会社としてどうするかを検討されてはいかがでしょうか。

※なお、この取り扱いは「通達発遣日以後の契約に係るもの」としていますので既存契約分への遡及適用はありません。
 

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筆者紹介

アタックス税理士法人 代表社員COO 税理士 愛知 吉隆
1962年生まれ。中堅中小企業から上場企業に至るまで、約800社の税務顧問先の業務執行責任者として、税務対応のみならず、事業承継や後継者支援、企業の成長支援等の課題や社長の悩みに積極的に携わっている。
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