デジタルビジネスに課税包囲網!~国際課税のルール変更で日本も税収増加?

税務

インターネットの発達は、ビジネスをデジタル化することでグローバル化を容易にし、経済活動の態様さえも従来と違うものに変えてしまいました。

容易に国境を越えて、市場となる国でビジネスを行い、利益を税率の低い軽課税国へ移すなどもその一例です。

デジタル課税とは

デジタル課税とは、こうした経済のデジタル化に対応してグローバルなIT企業に課税できるようにした仕組みです。

2021年10月、OECD/G20を中心に国際的な合意がなされました。その内容は以下の2つです。

(1) Pillar1(市場国への課税権配分)
(2) Pillar2(グローバル・ミニマム課税)

今後、2022年に多国間条約の策定や国内法制化を行い、2023年の適用開始を目指すとされています。
※(1)(2)の詳細は後述します。

経済のデジタル化と課税の問題

GAFAM( Google(現在:Alphabet)、Apple、Facebook(現在:Meta)、Amazon、Microsoft )をはじめとするデジタル企業のビジネスがグローバルに拡大したのは周知のとおりです。

こうしたデジタル企業の各国での法人税負担が、店舗を構える等これまでの伝統的方法でビジネスを行う企業に比べて低いとされ、国際社会で問題視されていました。

イギリス・フランスなどの欧州諸国では、GAFAMが自国民を相手に巨額の利益を上げているのに、従来の課税ルールではGAFAMの利益に課税できない、という不満が高まっていました。

日本でも、Amazonなどが同じような理由により、税金を極めてわずかしか支払っていませんでした。

デジタル課税

従来は、企業が海外に進出する場合、現地に工場や支店などを作ってビジネスを展開します。

これらの工場や支店などは恒久的施設PE(Permanent Establishment)と呼ばれ、これらの工場や支店などのPEは、その国での課税権の根拠となり、そのPEでの事業所得に対して課税が行われます。

ところが、IT企業のようにインターネットを通じてサービスを提供する企業は、その市場国に支店や工場などのPEを持たなくても事業の展開が可能であるため、その市場国の消費者から企業がいくら利益を上げていても、それに対してその市場国が課税することができません。

デジタル経済の実態に税制が追いついていなかったのです。

市場国での課税の強化と日本への影響

そこで、Pillar1(市場国への課税権配分)として、市場国に支店等の恒久的施設(PE)を持たずとも一定の売上がある場合は、市場国に課税権を配分することとしました

このルールが適用される対象企業は、全世界の売上高200億ユーロ(約2.8兆円)超、かつ利益率10%超の多国籍企業です。

超過利益(利益率10%を超える部分)のうち25%を市場国に対し、売上に応じて定式的に配分します。

必ずしもIT企業だけに限らず、資源関連企業と金融業を除く一般企業も含まれますので、消費者向け通販ビジネスなどもその対象となります。

これに該当するのは全世界で 100社程度となる見込みで、日本ではほとんどの企業は適用対象にはなりません。

一方で、この税制は、課税権が企業の所在する国から、サービスや商品を消費する国へ移転するというものになります。

日本の場合はどちらかと言えば、デジタルサービスを供給する側ではなく消費する側で、今回の合意が着実に実行されれば、日本の税収は増える方向となります

グローバル・ミニマム課税

併せて、Pillar2(グローバル・ミニマム課税)として、法人税率が低いタックスヘイブン(避税地)に子会社を設立している企業に課税が強化されます。

具体的には、その企業が実際に負担している法人税率が最低税率15%を下回っている場合、その差額が本国の親会社に上乗せして課税されます。

課税対象となる企業は、売上高7.5億ユーロ(約1,050億円)以上の企業です。

これは単なる課税権の移転だけではなく、世界全体の税収が増えることとなり、OECD の試算によると毎年1500億ドル(日本円で約19兆5000億円)と言われています。

これまでも、低税率国を「タックスヘイブン」と認定し、該当国での利益に合算課税することは行われていました。

しかし、各国の税率・制度適用の違いを利用して税負担を劇的に軽減する多国籍企業が散見され、こうした事態の是正にグローバル・ミニマム課税は一定の効果が期待されています。

日本企業の留意事項

市場国に課税権を配分するためには、具体的に収益がどの国で発生したかを把握する必要が出てきます。

そのため、最終消費者の所在地に関する情報提供が企業規模にかかわらず求められるケースもあります。

従来のPE課税のルール変更も含めてデジタル課税に対応する国内法制の制定については引き続き、注視していく必要があると思います。

また、グローバル・ミニマム課税についても、各国で低い法人税率を維持する意義が薄れてきます。

企業がすでに進出している、または進出を考えている国の税率が最低税率(15%)未満の場合、その国での税率アップの改正があるかもしれません。

日本の企業としても、今後のグローバルタックスプランニングについては慎重な検討が必要になります。

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筆者紹介

伊藤彰夫

アタックスグループパートナー
アタックス税理士法人代表社員 公認会計士・税理士 伊藤 彰夫
1967年生まれ。資本政策、事業承継、相続対策、M&A、国際税務の各ニーズに対応したコンサルティングに数多く従事。国際税務では、移転価格税制の対応、海外を活用したファイナンシャルプランニング、クロスボーダー交渉などの実績を誇る。現在、上場企業及び関連企業法人チームの統括責任者兼国際税務チーム責任者。
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