ニューノーマル時代の「労働分配率」最適化!~計画の逆算で強くて愛される会社へ

会計

以前、「労働分配率のあるべき姿とは?~適正な人件費を考える」というテーマでコラムを書いたところ、多くの方にご覧いただき、複数の質問を頂戴しました。

ニューノーマルの働き方が徐々に形になってきている昨今、人件費⇔生み出す成果のバランスはより一層重要なテーマとなってきます。

本コラムでは、質問いただいた内容に対する回答を中心に、もう一歩踏み込んで、労働分配率について解説します。

労働分配率の業界別平均・目安は何%なのか?

経済産業省が毎年実施している「経済産業省企業活動基本調査」(※)の中で、業界別の労働分配率が発表されています。
※2021年3月末に最新速報(2020年調査)が発表されました。

2020年度の速報ベースの主要業界別労働分配率は、製造業50.8%、卸売業49.5%、小売業50.0%、全業種合計では50.1%となっています。

経済産業省の定義では、以下となっています。

労働分配率=給与総額÷付加価値額×100
付加価値額=営業利益+給与総額+減価償却費+福利厚生費+動産・不動産賃借料+租税公課

※財務分析視点の実務では、
付加価値=売上-外部購入費(仕入・外注費等の売上に紐づいてかかる費用)
と扱っており、会社によっては粗利や限界利益と表現されているかもしれません。

さて、全業種合計での労働分配率は50.1%ですが、この数字を言い換えると、2つのことが言えます。

1.企業が稼いだお金(付加価値)の約半分が従業員に分配されている
  ≒残り半分は経費(家賃・広告宣伝費・減価償却費等)と営業利益
2.従業員は給料の倍の付加価値を生み出している

企業の稼いだお金の半分が従業員に分配されているわけですから、労働分配率を理解し、改善・コントロールしていくことは、安定的に経営していくためには非常に重要な要素であると言えます。

まず、ここまでお読みいただいたら、自社の決算書を手元に置いて、労働分配率が何%になっているか計算してみてください。

そして、同業界の平均値と比較し、業界平均との乖離を確認してみてください。
ご参考:政府統計の総合窓口(e-Stat)政府統計一覧
※本稿執筆段階では、2019年以前のデータであれば、より細かな産業別の労働分配率のデータも公表されています。

なお、労働分配率平均が高い業界、低い業界も存在するのでご紹介しておきます。
(注:以下業界の2020年度数字が未発表のため、2019年度数字で記載)

高い業界:情報通信業55.8%、飲食サービス業64.9%
低い業界:電気・ガス業21.0%、クレジットカード業・割賦金融業24.8%

情報通信業であればプログラマー、飲食サービス業であれば店舗人員と、ヒトが付加価値を生み出す労働集約型の業界は、労働分配率が高くなります。

逆に、電気・ガス業では設備が付加価値を生み出し、ヒトの比重が低い(設備・カネ・ブランド・情報といった比重が高い)業界の労働分配率は低くなります。

労働分配率のあるべき姿は具体的にどう考えればよいのか?

自社と業界平均の乖離を捉えたら、次に考えていただきたいのは、自社の労働分配率のあるべき姿です。

前項でお示しした約50%という数字は、安定的な利益を出す目安になってきますので、一つのあるべき姿と言えます。

また、以前のコラムで、労働分配率のあるべき姿は、
「事業構造・経営者の志向に合わせて、自社の適正範囲で中期的にコントロールされていること」
と記載しました。

この答えは、会社の利益計画を考えるステップの中にあります。

利益計画を考えるステップは以下のとおりです。
(STEP3,4で自社の労働分配率が定義されている)

▼STEP1
自社の必要利益はいくらか?
例:営業利益5千万円・・・①

▼STEP2
人件費以外の固定費はいくらかかるか?
例:設備費1億円、その他経費1億円・・・②

▼STEP3
1人あたり人件費はいくら払いたいか?
総額人件費はいくらになるか?
例:人員数40人
1人あたり人件費5百万円×40人=2億円・・・③

▼STEP4
付加価値総額はいくら必要か?
1人あたり付加価値はいくら必要か?
例:付加価値総額=①+②+③=4億円
4億円÷40人=1人あたり付加価値10百万円・・・④

▼STEP5
必要売上高はいくら必要か?
例:付加価値率40%
付加価値総額4億円÷40%=10億円

▼STEP6
STEP1~5を再確認し、
改善施策により実現可能性があるかを検証
(特に1人あたり付加価値)

上記例の経営を実現したい場合の、自社のあるべき労働分配率は
総額人件費2億円③ ÷ 付加価値総額4億円④ = 50%

ということになります。

重要なポイントは2点です。

1.必要利益からの逆算で考えること
2.1人あたり付加価値、1人あたり人件費という形で、1人あたりに落とし込んで考えること

利益計画を策定する際、売上→利益へ落とし込まれる会社が多くあります。

ただ、企業の長期安定経営(借入返済、配当、自己資本増強)の観点からすると、必要利益や分配したい人件費を明確にしたうえで、逆算で必要売上高を算出するのが、利益計画のあるべき姿と言えます。

そして、上記計算例のようにその過程の中で自社のあるべき労働分配率の姿が見えてきます。

利益計画を策定するとともに、労働分配率のあるべき姿を明確にし、それを実現するPDCAを回すことは、手間も労力もかかることですが、1年、2年、3年と繰り返す中で確実に成果につながる取り組みですので、是非トライしてみてはいかがでしょうか。

労働分配率をコントロールする方法は決算賞与以外にどのような手法があるのか?

以前のコラムで、労働分配率のコントロール手法として決算賞与ルールの活用を例示として解説しました。

本コラムでは、その他の主なコントロール手法を列挙する形でご紹介します。

・利益計画を必要利益から逆算で行い、幹部に利益創出や人件費創出の認識を強く持たせる
・在宅勤務の恒常化をきっかけとした、人事制度のメンバーシップ型(人に仕事をつける)から
 ジョブ型(仕事に人をつける)へ人事評価制度の変革
・結果責任を持つ層の給与体系を流動化(部長や執行役員の年俸制導入等)
・DX化や自動化を推進し、ヒトからIT・機械へ仕事の置き換えを推進し、
 ヒトはより高付加価値の業務を行う
・外注化の促進
・ワークシェアリング、時短勤務の有効活用

今後、在宅勤務の恒常化、メンバーシップ型からジョブ型への変革といった働き方の変化によって、一層人件費の分配に対する考え方は変化が求められてきます。

貴社も今一度、自社の労働分配率を見つめなおすきっかけとされてはいかがでしょうか。

アタックスグループでは、労働分配率のあるべき姿を実現するための経営計画策定やPDCAを回すご支援を行っております。お気軽にご相談ください。

筆者紹介

株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 取締役
中小企業診断士 平井 啓介
業務系システムを扱う大手システムベンダーを経てアタックス入社。 システムエンジニア時代は、会計システムを中心に、中堅中小企業~上場企業まで業種を問わず、約60社の業務改革を支援。システム企画~導入・運用支援まで、プロジェクトマネジメントのみならず、現場の実態を理解したうえでのサポートを得意とする。アタックス参画後は、システムエンジニア時代に得たITスキル、ロジカルシンキングスキルを応用し、業績管理制度構築サポート、業務プロセス改革サポート(BPR)、事業再生サポートに従事。経営者、管理部門責任者の相談相手に注力している。
平井啓介の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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