労働分配率のあるべき姿とは?~適正な人件費を考える

会計

働き方改革による、残業規制、同一労働同一賃金、最低賃金の引上げ・・・等々、
単純に捉えれば、これらはいずれも、人件費に大きな影響を与える出来事です。
人件費は、会社を支える最大の源泉であり、同時に最大のコストです。

このような大きな変化がある中、改めて自社の状態を確認いただきたい重要な経営指標があります。

それは「労働分配率」です。

本コラムでお伝えしたいことは3点です。

1.労働分配率とは何か?
2.労働分配率のあるべき姿とは?
3.労働分配率はどうすればあるべき姿になるのか?

1.労働分配率とは何か?

一言で言えば、「稼いだお金を社員にどれだけ分配しているか」を数字にしたものです。

算式で言うと、

労働分配率 = 人件費 ÷ 付加価値

です。

付加価値は、売上から外部購入費(仕入・外注費等の売上に紐づいてかかる費用)を引いた利益です。

会社によっては粗利や限界利益と表現されているかもしれません。

なお、店舗の家賃や、宣伝のための広告料等は、売上との紐付けが難しいため外部購入費には含めず、固定費として考える場合が多いです。

※経済産業省の企業活動基本調査等の考え方と、財務分析視点での考え方で、付加価値の算式が異なる点にご留意ください。

例えば、売上:100、仕入40、外注加工費10、人件費30だとすると、
労働分配率=人件費[30]÷付加価値[100-40-10]=60%ということになります。

高ければ高いほど、稼いだお金のうち多くを社員に分配しているということを表しています。

この労働分配率から何がわかるのでしょうか?

それは、
「会社の実力に応じた人件費の分配になっているか」

言い換えると
「社員は人件費に応じたパフォーマンスを出せているか」
「生産性向上の取組みの成果が経営数値に表れているか」

です。

是非、自社の損益計算書を5期~10期並べて、どのような推移になっているかご確認ください。

2.労働分配率のあるべき姿とは?

労働分配率は高ければいいのか?低ければいいのか?何%がいいのか?
そういったシンプルな疑問が湧くかと思います。

高すぎると、利益を圧迫しすぎて赤字体質に陥ります。
低すぎると、稼ぎに対して給料が少ないと社員から不満が出るかもしれません。

業種毎に収益構造が異なるため、単純な答えはありませんが、概ね50%~60%弱が労働分配率の目安になってきます。

単純な答えが無いが故に、労働分配率のあるべき姿の結論としては、
「事業構造・経営者の志向に合わせて、自社の適正範囲で中期的にコントロールされていること」
ということになります。

以下の区分けで、自社の収益費用構造に合わせて労働分配率のあるべき姿を考えてみてください。

・付加価値のうち何%が人件費になるべきか?
・付加価値のうち何%がその他経費になるべきか?
・付加価値のうち何%が営業利益や経常利益になるべきか?
 (必要な内部留保、借入返済、納税、配当等を考慮)

3.労働分配率はどうすればあるべき姿になるのか?

このテーマについて以下に2点お話します。
1点目は「1人あたり付加価値の向上」です。

労働分配率の算式は、1人あたりに言い換えると、

労働分配率 = 1人あたり人件費 ÷ 1人あたり付加価値

です。

労働人口の高齢化、同一労働同一賃金、政府のインフレ政策などにより、現状、1人あたり人件費は上昇傾向にあります。

そのような中で労働分配率を適正にコントロールするためには、やはり1人あたりの生産性を上げていくことが非常に重要です。

もちろん、人財教育、設備投資、IT活用をはじめ、生産性を向上させる取り組みは、各企業最優先で取り組まれていると思いますが、1人あたりの生産性についてもぜひ確認していただきたいと思います。

なお、労働分配率は逆数にすると、人財生産性という人の生産性を示す指標になります。

人財生産性 = 1人あたり付加価値 ÷ 1人あたり人件費

要するに、「給料の何倍稼いでいるか」です。
人財生産性が2倍ということは、労働分配率は50%ということになります。

労働分配率は分配するという側面が強くなるため、生産性向上のメッセージを伝えるにあたっては、人財生産性を用いた方が、社員にとってはわかりやすいでしょう。

2点目は、「労働分配率をコントロールする仕組みづくり」です。
例えば、決算賞与ルールの活用です。

決算賞与は、月次給与や定期賞与といった生活給要素が強いものと異なり、業績連動による報償的意味合いの強い報酬です。

報酬制度の中で決算賞与ルールを明確にすることで、労働分配率をコントロールしやすくなります。
また、社員の頑張りを報酬面で報いることで、モチベーション向上にもつながります。

決算賞与を活用した正の循環は以下のとおりです。(数字は例)

①1人あたり人件費計画、適正労働分配率から、
 1人あたり付加価値の必要額を設定
 1人あたり人件費500万、適正労働分配率50%
 →1人あたり付加価値1,000万
   ↓
②期末時点の1人あたり付加価値実績が1,050万(=労働分配率47.6%)
   ↓
③労働分配率が50%となるよう決算賞与で25万円分配
   ↓
④モチベーション向上、更にレベルアップした①の設定へ

繰り返しになりますが、人件費は、会社を支える最大の源泉であり、同時に最大のコストです。

生産性を示す人財生産性の議論と同時に、人件費の分配指標である労働分配率も改めて注目してみてはいかがでしょうか。

もう少し詳しく「労働分配率」について知りたい方は、下記コラムもご覧ください。
▼ニューノーマル時代の「労働分配率」最適化!~計画の逆算で強くて愛される会社へ

本コラムのポイントを動画でも解説しています

筆者紹介

株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 取締役
中小企業診断士 平井 啓介
業務系システムを扱う大手システムベンダーを経てアタックス入社。 システムエンジニア時代は、会計システムを中心に、中堅中小企業~上場企業まで業種を問わず、約60社の業務改革を支援。システム企画~導入・運用支援まで、プロジェクトマネジメントのみならず、現場の実態を理解したうえでのサポートを得意とする。アタックス参画後は、システムエンジニア時代に得たITスキル、ロジカルシンキングスキルを応用し、業績管理制度構築サポート、業務プロセス改革サポート(BPR)、事業再生サポートに従事。経営者、管理部門責任者の相談相手に注力している。
平井啓介の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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