待ったなし事業承継!~増える“親族外承継”リスクと対策

事業承継

変化する事業承継の後継者

中堅中小企業にとって事業承継は喫緊の課題と言われる中、近年、その形態に変化がみられます。

11月に発表された帝国データバンク社の「後継者不在率動向調査」では、先代経営者と後継者の関係性(就任経緯別)をみると、2020年の事業承継は「親族内承継」が34.2%でした。

2018年からは約10%も下落しており、「親族内承継」による事業承継割合は急激に減少傾向にあります。

一方、血縁関係によらない役員などを登用した「内部昇格(以下親族外承継)」は 34.1%となり、親族内承継の僅か0.1%差に迫ってきています。

また、私共が企画・運営している経営承継支援機関である「アタックス社長塾」の入塾生の内訳も、これまで親族内後継者が主でしたが、親族外後継者の割合が3割近くまで増加しています。

事業承継の形態が変化し、「親族内承継」から、役員や従業員への「親族外承継」にシフトしていると言えます。

「親族外承継」の場合、後継者選びの選択肢が広がり、売却・廃業することなく会社や事業を存続させることができます。

その半面、創業家の親族にとっては、役員や従業員とはいえ、身内でない人を経営者にすることに抵抗を持つこともあり、親族株主と後継者の間に、トラブルが生じる恐れがあります。

また、親族内承継とは違った不安要素があります。

親族ではない事業承継の不安要素とは

親族外承継後に創業家が抱くであろう不安要素としては、主に以下の4つが挙げられます。

1.後継社長が、企業のDNAを引き継いでくれるか?
2.後継社長が、よこしまな心を持たず、会社を守ってくれるか?
3.経理をはじめ、不正に手を染める社員がでないか?
4.後継社長が、経営能力の強化に向け、学んでくれるか?

そこで、このような不安要素を解消し、円滑な関係性を保つための「親族外承継を失敗させないポイント」を整理します。

親族外承継を失敗させない3つのポイント

ポイント①:創業家の現経営者離脱後の所有と経営のあり方について

親族外承継は、以下の2パターンがあります。

  • 株式と経営の両方を後継者が引き継ぐケース
  • 株式は現経営者がそのまま保有し、経営だけを引き継ぐケース

後者の「株式は現経営者がそのまま保有し、経営だけを引き継ぐケース」では、親族以外の者へ「経営」を承継することによって、「所有」と「経営」が分離し、創業家と親族外承継者で経営の実権が曖昧になり、トラブルが発生するケースも想定されます。

現経営者が経営を行っていたときは、ほかの株主たちが経営の方針に理解を示していたとしても、事業承継後に親族外の後継者の経営方針に対してほかの株主たちが理解を示すとは限らないのです。

そのため、どの株主グループで議決権の合計51%(普通決議の要件)、あるいは、67%(特別決議の要件)を持つのか?役員持ち株会、社員持ち株会を活用するか?株主として外部機関を活用するのか?など、株主構成に問題がないか改めて見直さなければなりません。

つまり、株主の構成、種類株式(譲渡制限、議決権制限など)や純粋持ち株会社の活用なども検討しながら、承継後の「所有」と「経営」のあり方について、方針を明確にしておく必要があります。

なお、「株式と経営の両方を後継者が引き継ぐケース」では、株式承継の問題が挙げられますがここでは割愛します。

ポイント②:チェック機能の強化

事業承継をして後継者に経営を譲った後に、会社の私物化やコンプライアンス違反など、後継者が暴走してしまい会社を危うくしてしまうケースも想定されます。

会社の規模に関わらず重要なのは、チェック機能を果たすこと、つまり企業統治や内部統制の仕組みを整えることで、経営者による会社の私物化や不正を防止して、企業の透明性を確保することです。

親族外承継では、こうしたチェック機能が果たす役割はとても大きく、うまく機能することで、創業家、顧客、取引先、従業員、金融機関を含む利害関係者から信頼されやすくなり、企業の持続的成長につながります。

また、経営理念やクレドにより行動規則を表現・浸透させておくことや、ビジョンや経営計画の浸透、株主総会・取締役会を機能させることも重要です。

親族外経営者・幹部・社員への定期的なサーベイを実施し、お互いを評価し合うこともチェック機能の一つとなります。

コロナ禍という危機の中で、星野リゾートの星野佳路代表が自社の「倒産確率」を社員向けに公表していることは、従業員の自立性を高めるとともに、客観的に自社を評価しているという、チェック機能の一つかもしれません。

ポイント③:経営能力向上に向けた後継者育成

後継者の能力不足が原因で、事業承継後に業績が悪化するケースは少なくありません。

とは言っても、経営者としての経験がない場合がほとんどですので、最初からすべてを兼ね備えている後継者はごく僅かです。

そこで、事業承継には、事前に5年~10年の時間をかけて、後継者に中長期経営計画策定やその推進など、経営全体を考え実行する経験をさせることが必要です。

後継者の社内外における存在感も高まります。

さらに、創業者の持つ高い熱量をどれだけ承継し、後継者自身が高い熱量をもって自社の経営課題を設定し、事業に当たるかが成功の鍵になります。

そのために後継者は、定期的に現場を離れて自らを振り返り「深く思索する時間」を持つことが絶対に必要です。

必要に応じて、外部のコーチによる経営コーチング等を活用することをお勧めします。

また、後継者が取り組むべきこととしては、自身の経営能力向上のほか、計画的に自身の右腕の育成を進めることや、自身を取り巻く環境を理解し、創業家一族との関係を良好に保つことなどを予め計画しておくことも重要です。

アタックスグループでは、経営承継支援機関として「アタックス社長塾」を開講しております。
環境変化の激しいこの時代をたくましく生き抜くために、後継者が必ず身につけるべき要素を長年にわたる経営伴走の経験をもとに体系化し、成功のセオリーとして完成させました。

実践に基づいたプログラムを広く浸透させ、一人でも多くの後継社長を輩出することが、我々アタックスグループの使命であると考えております。

ご関心のある方にはパンフレットをお送りしますので、こちらからお気軽にご請求ください。

筆者紹介

アタックスグループ アタックス社長塾 コンサルタント MBA(経営学修士)
小島 健嗣
1979年生まれ。名古屋商科大学ビジネススクール卒。税理士法人、商社勤務を経て、2013年アタックス税理士法人入社。2019年からアタックス社長塾に参画。前職の商社で財務責任者を務めた経験を活かし、経営を財務の面からサポートする社外CFOとして、「いかにすれば可能かを語れ」をモットーに、経営者の戦略的な意思決定を導くことに従事。現在は、中堅中小企業への豊富なコンサルティング業務を通じて培った知識と経験を活かし、アタックス社長塾サブディレクター兼伴走コンサルタントとして活躍中。
小島健嗣の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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